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神戸地方裁判所 平成7年(ワ)1703号 判決

主文

一  被告安田火災海上保険株式会社は、第一事件原告古坂勝也に対し、金二八〇万円及びこれに対する平成七年三月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告日産火災海上保険株式会社は、第一事件原告古坂勝也に対し、金一一八〇万円及びこれに対する平成七年三月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  被告日動火災海上保険株式会社は、第一事件原告河合謙二郎訴訟承継人河合和子に対し、金二〇〇万円及びこれに対する平成七年三月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

四  被告大東京火災海上保険株式会社は、第一事件原告竹馬文子に対し、金四八〇万円及びこれに対する平成七年三月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

五  第一事件原告古坂勝也、同原告河合謙二郎訴訟承継人河合和子及び同竹馬文子のその余の各請求並びにその余の第一事件原告ら(訴訟承継人を含む。)及び第二事件原告西條嘉一の各請求を、いずれも棄却する。

六  訴訟費用は、

1(一)  被告安田火災海上保険株式会社と第一事件原告古坂勝也との間では、同原告に生じた費用の一〇分の一を同被告の負担とし、その余を各自の負担とし、

(二)  被告日産火災海上保険株式会社と第一事件原告古坂勝也との間では、同原告に生じた費用の五分の一を同被告の負担とし、その余を各自の負担とし、

(三)  被告日動火災海上保険株式会社と第一事件原告河合謙二郎訴訟承継人河合和子との間では、同原告訴訟承継人に生じた費用の一〇分の一を同被告の負担とし、その余を各自の負担とし、

(四)  被告大東京火災海上保険株式会社と第一事件原告竹馬文子との間では、同原告に生じた費用の五分の一を同被告の負担とし、その余を各自の負担とし、

2(一)  被告安田火災海上保険株式会社と第一事件原告大前正幸、同入谷康一、同内山美佐子、同西佐小國雄、同浜田孝、同福井兼雄訴訟承継人福井佳津代、同松本昭二訴訟承継人松本壽雄、同三野文男、同山中真弓、同山本二朗、同山本道栄及び同山本美代子との間では、同被告に生じた費用の一〇分の九を同原告らの負担とし、その余を各自の負担とし、

(二)  被告富士火災海上保険株式会社と第一事件原告内山美佐子、同稲垣忍、同碓井良孝、同内田弘美、同内山幸弘、同西郷加津江、同阪田了三、同坂本誠一、同柴田太三郎、同南方みつえ、同山本義一及び同吉本ツネ子との間では、全部同原告らの負担とし、

(三)  被告第一火災海上保険株式会社と第一事件原告西佐小國雄、同坂本誠一、第一事件原告兼同市田謙一訴訟承継人市田恭子、第一事件原告河原隆、同木下哲也、同須磨正勝及び同山下勝男との間では、全部同原告らの負担とし、

(四)  被告同和火災海上保険株式会社と第一事件原告須磨正勝、同石井通世、同梶原吉夫、同蟹江正昭、同塩澤剛、同中村忠義、同坂東昭夫及び同〓中勝との間では、全部同原告らの負担とし、

(五)  被告日動火災海上保険株式会社と第一事件原告浜田孝、同岩本一也、同光明清、同笹山茂治及び同村上捷三との間では、同被告に生じた費用の一〇分の九を同原告らの負担とし、その余を各自の負担とし、

(六)  被告住友海上火災保険株式会社と第一事件原告大前正幸、同板倉武雄及び同神田信男との間では、全部同原告らの負担とし、

(七)  被告興亜火災海上保険株式会社と第一事件原告入谷康一、同神田信男及び同伊藤敬との間では、全部同原告らの負担とし、

(八)  被告大東京火災海上保険株式会社と第一事件原告後藤寿子及び第二事件原告西條嘉一との間では、同被告に生じた費用の五分の四を同原告らの負担とし、その余を各自の負担とし、

(九)  被告東京海上火災保険株式会社と第一事件原告秋山千里及び同秋山正行との間では、全部同原告らの負担とし、

(一〇)  被告三井海上火災保険株式会社と第一事件原告近藤啓子及び同三井誠との間では、全部同原告らの負担とし、

(一一)  被告日本火災海上保険株式会社と第一事件原告江部穏との間では、全部同原告の負担とし、

(一二)  被告エイアイユーインシュアランスカンパニーと第一事件原告上月敬三との間では、全部同原告の負担とする。

七  この判決の第一項ないし第四項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  主位的請求

別表1ないし同77の「被告名」欄記載の各被告は、それぞれ同表「原告名」欄記載の各原告に対し、同表「保険金額(合計)」欄記載の各金員及び右各金員に対する平成七年三月二〇日(損害発生の通知又は各被告による了知の日の三〇日後)から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  予備的請求

別表1ないし同77の「被告名」欄記載の各被告は、それぞれ同表「原告名」欄記載の各原告に対し、同表「保険金額(合計)」欄記載の各金員又は「二次的賠償請求額」欄一行目記載の各金員及び右各金員に対する平成七年三月二〇日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、被告らとの間で個別に火災保険契約を締結した者若しくはその相続人又は被保険者である各原告が、阪神・淡路大震災発生の際に発生した火災により右各火災保険契約の目的物が焼失したとして、主位的に右各契約に基づく火災保険金の支払を求あるとともに、予備的に、契約締結過程において情報提供義務の不履行があったとして、保険募集の取締に関する法律(平成七年法律第一〇五号による廃止前のもの。以下同じ。)違反、不法行為、債務不履行又は契約締結上の過失責任に基づき、損害(一次的には火災保険金額相当額、二次的には地震保険金額相当額から地震保険料相当額を控除した額)の賠償を求めた事案である。

二  前提となる事実(証拠を掲げた事項以外は当事者間に争いがない。)

1  当事者

(一) 原告ら(訴訟承継人の場合は、被承継人。以下同じ。)及び原告内田弘美被相続人内田勉は、平成七年一月一七日の兵庫県南部地震(以下「本件地震」という。)発生当時、別表1ないし同77(以下、これらの別表全部を総称するときは、単に「別表」という。)の各原告の「保険の目的」欄記載の各建物(以下、別表の番号を付して「本件建物1」「本件建物2」・・・のように表示し、これらを総称するときは「本件各建物」という。)又は家財等(以下、別表の番号を付して「本件家財1」「本件家財2」・・・のように表示し、これらを総称するときは「本件各家財等」という。)を、所有(共有)又は占有していた(以下、本件各建物と本件各家財等をまとめて「本件各目的物」という。)。

(二) 被告らは、いずれも肩書地に主たる事務所を有し、火災等の保険事業等を主たる目的とする株式会社又は相互会社で、大蔵大臣の免許を受けた損害保険会社である。

2  火災保険契約の締結等

(一) 別表の「原告名」欄記載の各原告は、本件地震が発生するよりも前に、同表「被告名」欄記載の各被告との間で、同表の契約内容の欄(「契約証番号」又は「領収証番号」、「保険の目的」、「保険金額」、「保険料」及び「保険期間」の各欄)記載の内容の火災保険契約(以下、別表の番号を付して「本件火災保険契約1」「本件火災保険契約2」・・・のように表示し、これらを総称するときは「本件各火災保険契約」という。)を、それぞれ締結した。

ただし、別表3の契約は、直松安太郎が締結し(乙A一五の1)、同人が平成四年四月二五日死亡したことにより原告内山美佐子がその契約上の地位を相続したものであり、また、別表19の契約は、内田勉が締結し(乙B二〇の1)、同人が平成七年一月一七日死亡したことにより原告内田弘美がその契約上の地位を相続したものである(弁論の全趣旨)。

また、別表77の契約は、有限会社アオバ商事が原告西澤嘉一を被保険者として締結したものである。

(二) 本件各火災保険契約の種類は、次のとおりである。

(1) 住宅総合保険   本件火災保険契約5、同8、同9、同12、同13、同19、同25、同39、同43、同52、同53、同54、同64、同66、同76

(2) 住宅火災保険   本件火災保険契約6、同7、同15、同26、同33、同37、同38、同40、同41、同44、同49、同57、同58、同63、同65、同77

(3) 長期総合保険   本件火災保険契約3、同11、同14、同17、同20、同21、同42、同47、同51、同55、同56、同59、同60、同61、同62、同67、同68

(4) 月掛住宅総合保険 本件火災保険契約16、同18、同22、同23、同24、同27、同45、同46、同50

(5) 火災相互保険   本件火災保険契約28、同29、同30、同31、用32、同35、同36

(6) 住宅金融公庫融資住宅等火災保険  本件火災保険契約1、同2、同4、同10

(7) 店舗総合保険   本件火災保険契約34、同69、同70、同71、同72、同73、同74、同75

(8) 月掛店舗総合保険 本件火災保険契約48

3  本件地震の発生及び本件各目的物についての被害の発生

(一) 平成七年一月一七日午前五時四六分、北緯三四度三六分、東経一三五度〇三分、深さ約一四キロメートルを震源とするマグニチュード七・二の本件地震が発生した。

(二) 同日午後二時ころ、神戸市東灘区魚崎北町五丁目八番一二号所在の株式会社サンタの倒壊店舗(木造スレート葺モルタル塗平家建。以下、「サンタシューズ店舗」という。)から出火して火災が発生し(以下「本件火元火災」という。)、これが延焼・拡大して、本件各建物(ただし、延焼当時既に倒壊・滅失していたかどうかについては争いがある。)を含む八五棟の住宅・店舗等の建物が全焼するなどの被害が発生した(以下、本件火元火災と延焼・拡大した火災を合わせて「本件火災」、その火災発生区域を「本件火災現場」という。)。

4  本件各目的物について損害が発生した旨の原告による通知ないし被告の了知

(一) 別表の「原告名」欄記載の各原告(ただし、次の(二)記載の者を除く。)は、同表「被告名」欄記載の各被告に対し、それぞれ遅くとも平成七年二月一七日までに、本件火災により本件各目的物に損害が発生した旨通知した。

(二)(1) 被告富士火災海上保険株式会社は、遅くとも平成七年二月一七日までに、別表15ないし27の「原告名」欄記載の各原告につき、前記3(二)記載の損害が発生したことを了知していた。

(2) 被告同和火災海上保険株式会社は、遅くとも平成七年二月一七日までに、別表37及び44の「原告名」欄記載の各原告につき、前記3(二)記載の損害が発生したことを了知していた(弁論の全趣旨)。

(3) 被告興亜火災海上保険株式会社は、遅くとも平成七年二月一七日までに、別表56ないし58の「原告名」欄記載の各原告につき、前記3(二)記載の損害が発生したことを了知していた。

(4) 被告大東京火災海上保険株式会社は、遅くとも平成七年二月一七日までに、別表77の「原告名」欄記載の原告につき、前記3(二)記載の損害が発生したことを了知していた(弁論の全趣旨)。

5  地震免責条項の存在

本件各火災保険契約についての各普通保険約款には、いずれも、左記のような地震免責条項(以下、単に「地震免責条項」という。)が定められている(住宅火災保険普通保険約款、住宅総合保険普通保険約款、月掛住宅総合保険普通保険約款、火災保険普通保険約款[一般物件用]、火災相互保険[マルマル火災保険]普通保険約款、店舗総合普通保険普通保険約款の各第一章二条二項、住宅金融公庫融資住宅等火災保険特約条項二条二項、長期総合保険普通保険約款Ⅰ損害条項第二章一〇条二項)。

「 当会社は、次に掲げる事由によって生じた損害(これらの事由によって発生した前条(保険金を支払う場合)の事故が延焼または拡大して生じた損害、および発生原因のいかんを問わず前条(保険金を支払う場合)の事故がこれらの事由によって延焼または拡大して生じた損害を含みます。)に対しては、保険金を支払いません。」

「(2) 地震もしくは噴火またはこれらによる津波。」

6  保険金請求権についての質権設定

本件各火災保険契約のうち、本件火災保険契約33、同38、同39、同41、同44、同58、同76及び同77に基づく各保険金請求権については、順にそれぞれ、星和信用保証株式会社、さくら信用保証株式会社、日新信用金庫、日本総合信用株式会社、さくら信用保証株式会社、株式会社アプラス、株式会社オリエントコーポレーション、株式会社但馬銀行のために質権が設定され、被告第一火災海上保険相互会社(本件火災保険契約33について)、被告同和火災海上保険株式会社(本件火災保険契約38、同39、同41、同44について)、被告興亜火災海上保険株式会社(本件火災保険契約58について)、被告エイアイユーインシュアランスカンパニー(本件火災保険契約76について)及び被告大東京火災海上保険株式会社(本件火災保険契約77について)は、それぞれ右質権設定を承認した。

三  争点

(主位的請求)

1 地震免責条項の効力

2 地震免責条項の意味内容

3 地震免責条項の本件における適用の有無

4 本件各目的物の滅失は、火災によって生じた損害といえるか(本件各目的物は、本件火災による滅失の前に既に本件地震により滅失していなかったか。)。

5 保険金請求権に質権が設定されていることは、被保険者が保険金を請求するにつき障害となるか。

(予備的請求)

6 被告らは、地震免責条項についての情報提供義務違反により損害賠償責任を負うか。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(地震免責条項の効力)について

(被告らの主張)

1 地震免責条項の拘束力

(一) 保険は、高度の技術的基盤の上に立ち、かつ、団体的性格を有する制度であるから、個々の保険加入者との間に個別の折衝を行うことによって保険契約の内容を定めることは不可能であるし、また、契約内容が区々にわたることは許されず、保険料や保険金も全員にとって平等かつ公平でなければならない。

これらの要請を充足し、迅速かつ大量に保険契約を締結するためには、保険会社において、全保険加入者に一律に適用する公平な契約条項を予め定めておき、個々の保険加入者がこれに従う形式を採ることが必要である。

そのため、現在の損害保険契約においては、主務官庁の監督の下、詳細な標準的約款(普通保険約款)が保険会社によって作成され、保険加入者はこれに附合することによって保険契約を締結することとされ、保険約款に基づいて保険契約が締結されたときは、保険加入者の知・不知、主観的な意思、あるいは保険会社からの格別の開示や内容についての説明の有無とは関わりなく、強行法規に低触しない範囲において保険約款が保険加入者を拘束するものとされている。

(二) 相手方において予期できないほどに慣行的でなく異常な内容をもった約款条項の効力が否定されるとしても、後述するとおり、地震免責条項は十分合理的な根拠を有する。また、火災保険は期間一年で更新されることが多く、新規加入及び更新の際に地震保険加入の意思確認が行われる取扱いも三〇年以上継続されているところ、保険会社が整備している事務処理システムのもとで、新規加入の場合であるか更新の場合であるかを問わず、火災保険の約款は必ず契約者に送付されており、これにより地震免責条項の存在を認識し得る状況が広く形成されている。このように、火災保険は広く一般に普及しており、地震免責条項は一般に認識可態な状態となっており、予測可能なものであり、非慣行的なものではない。

2 地震免責条項の正当性

(一) 以下に述べるとおり、再三にわたり地震免責条項の有効性が司法的に確認されているのみならず、新潟地震の後に立法的に創設された地震保険制度は、その目的及び制度上の特色から明らかなとおり、地震免責条項が有効であることを当然の前提としているのであり、地震免責条項の有効性については、もはや異論を差し挟む余地はない。

(1) 地震免責条項の根拠

地震が保険になじみにくい異常危険であることは、識者の一致して認めるところであるが、その理由としては、〈1〉地震は異常に巨大なときがあり、その損害が日本の損害保険事業の担保能力をはるかに超えることも起こり得ること(地震損害の巨大性)、〈2〉地震は、かなりの長期間を取ってみても、その発生時期、規模、場所がいずれも不規則であり、かつ、同一規模の地震でも自然条件及び社会条件によって損害額が大きく左右され、そのため、地震災害には、保険の技術的前提である大数の法則が通用せず、平均損害額の算定ができないこと(発生予測の困難性)、〈3〉地震は地域的に頻度差が大きく、また、いったん地震が発生すれば一定地域に長期に地震が反復する傾向もみられ、それゆえ、地震の危険を強く感じる地域の人だけが集中的に保険に加入したり、危機意識のある時期だけ保険に加入するなどの傾向が生じ、危険の平均化が難しいこと(逆選択の危険)、が挙げられる。

そこで、地震多発地帯に位置する日本においては、民営の保険によって地震損害をてん補することが極めて困難であるため、火災保険契約においても、その発足当初から地震免責条項が規定されており、その有効性に関しては、今日では、これを否定する学説は存在せず、多数の判例もこれを認めている(大審院大正一五年六月一二日判決・民集五巻八号四九五頁等)。

(2) 地震保険制度の創設

昭和三九年の新潟地震を機に、昭和四一年五月一八日、地震保険に関する法律が制定されたが、そこでは、右(1)記載のような問題点を回避するため、〈1〉保険の目的を居住用建物と生活用動産に限定し、保険金額に支払限度額を設け、かつ、一回の地震についての総支払額を制限して支払保険金が過大になることを回避し、〈2〉保険会社が一定額まで損害をてん補し、これを超える分については政府の再保険制度を採用して民営ベースに乗せ、〈3〉地震保険を火災保険に附帯させてのみ締結することにして逆選択の防止を図った。

そして、地震保険の保険料率は、一四九八年から一九六四年までの四六七年間に、日本及びその周辺で発生し災害をもたらした三三一の地震を参考にし、地震保険発足当時の被害額を想定して算定された。昭和五五年の地震保険制度改定の際にも、一四九四年から一九七八年までの四八五年間の三四九の地震を基礎に損害が推定され、保険料率が算定されている。

このように、地震保険は約五世紀にわたる、異常に長い期間を料率計算の前提にし、保険金の上限を課すなどの様々な制約を設けて初めて実現可能となったもので、このことは、地震損害を現在の火災保険によって付保することがおよそ不可能であること、それゆえに地震免責条項が合理性を有することを端的に示している。

(二) また、以下に述べるとおり、地震免責条項が保険会社を不当に利する条項となることは構造的にあり得ず、まして、公序良俗違反の問題など生じる余地はない。

(1) 保険の財政的基盤を維持し、保険を公平かつ有意ならしめるためには、収支相当の原則(徴収する保険料の総額と支払保険金の総額とは均衡していなければならないこと)及び給付反対給付均等の原則(個々の保険加入者の事故発生の危険率等に応じて保険料の額が割り振られ、保険加入者は、その支払った保険料に応じて、すなわち保険料と対価的均衡関係にある損害の範囲においてのみ保険金の支払を受けることができるということ)が必須の根本原則である。

そのうち、収支相当の原則からの帰結として、特定の危険を免責として保険の担保範囲から除外する場合には、その保険団体においては当該危険が担保されないことを前提に収支が均衡するよう保険料率が計算されねばならない。

(2) この理は、地震火災による損害についても例外ではなく、火災保険においては、地震損害をてん補しないことを前提に、単年度内で収支が均衡するよう高い精度をもって保険料率の計算がなされている。

したがって、火災保険においては、地震損害をてん補するための原資が蓄積されておらず、地震火災による損害に対する保険金の支払を拒絶しても、保険会社に特段の利得が生ずることはあり得ない。

(三) そもそも、火災保険によって地震火災による損害をもてん補すべきか否かという問題は、約款の拘束力や有効性に関する解釈論によって解決できるような性質の問題ではなく、すぐれて保険制度改革上の問題であり、現行地震保険制度は、火災保険によって地震火災損害をてん補することの問題点について十分な熟慮がなされた上で制定、整備されてきたのであって、この基本的な枠組みは解釈論によって右左し得るものではない。

(原告らの主張)

1 地震免責条項が本件各火災保険契約の契約内容として取り入れられていないこと

火災保険契約を締結する顧客は火災の原因を問わず火災によって目的物に生じた損害はてん補されるとの期待を有しているところ、地震免責条項は右の期待に反するものであり、顧客にとって火災保険契約締結の意味を実質的に失わせることになり得るものである。かかる重要な条項については、契約締結に当たり顧客が当該条項の意義、内容を十分理解し納得の上でそれを選択するという意思表示が存在するのでなければ個別の火災保険契約の中へ取り込まれることはない。

被告らは、原告らに対し、地震免責条項につき、十分な開示・説明をしていないのであり、原告らは地震免責条項の意義、内容を十分理解し納得の上で本件各火災保険契約を締結したものではないから、地震免責条項は本件各火災保険契約の内容として取り入れられていない。

2 地震免責条項が公序良俗に反し無効であること

仮に、地震免責条項が、形式的には、本件各火災保険契約の契約内容として取り入れられるとしても、以下のとおり、地震免責条項は、現在においてはその存在理由に乏しく、また、規定自体が漠然不明確で免責範囲が不当に広く解されるおそれがあり、結局、損害保険会社を利するだけの条項であって、大企業がその経済的優位を背景として一方的に設定する約款の条項としては、著しく正義に反し、公序良俗違反により無効である。

(一) 地震免責条項の存在理由等について

(1) 被保険者側あるいは被害者側に特に帰責事由がないにもかかわらず、保険者や加害者を免責するような条項の存在理由は、結局のところ、当該事業をめぐるコストと収益のバランスに帰着する。つまり、あらゆる事態に対して責任を負わなければならないとすれば、その企業にとってリスクが大きすぎ、健全な育成が実現されないことから、一定範囲の事項について責任が生じないようにするというのである。しかし、当該企業がリスクに耐え得るほどに成長した場合には、免責条項の持つ意味は薄らぎ、消費者を犠牲にするだけの時代遅れの無用の規定ということにもなってくる。

地震免責条項は、明治以来日本の損害保険事業の健全育成のために存在してきたのであるが、今日における日本の損害保険会社は、多額の資産を蓄積し、産業基盤の確立した企業体であって、もはや健全な保護、育成を図るべき発展途上の企業ではない。したがって、今日においては、地震免責条項によって損害保険会社を保護すること自体、合理性がない。

(2) 地震免責条項そのものの存在理由としてしばしばいわれているのは、地震による損害の巨大性や地震危険の予測不可能性等の特性から、地震危険は危険分散技術としての保険数理になじまないということである。

しかし、以下のとおり、右は失当である。

ア 関東大震災以後もかなり頻繁に大地震は発生しているが、損害保険会社の存立の基礎を危うくするほどの大火災は全く起きておらず、むしろ、保険の対象となるフェーン現象等による大火、風水害(台風等)による建物被害の方が大規模な場合が多く、地震火災のみが免責されなければならない必然性はない。

イ 日本において、平成七年上半期は、本件地震があったにもかかわらず、平成六年上半期に比べ、建物火災件数は減少しており、焼損棟数も約五〇〇〇棟の増加があるにすぎないのであって、本件地震の影響は限定的であり、火災に関していえば、保険会社の存立の基礎を揺るがすような大規模な災害ではない。

ウ 本件地震による被害の被災者は、頼りにしていた保険金を得られず、避難生活を強いられ、あるいは二重ローンに苦しんでいるにもかかわらず、損害保険会社は、かえって大幅増収を計上している。かかる非常識、非人道的な結果をもたらしたのは、被告らの地震免責条項とその運用にほかならず、その合理性は極めて疑問である。

エ 本件地震後の火災の延焼拡大の防止は不可能ではなく、消防水利の確保や消防力の不足という消防体制の不備がなければ、これほどまでに延焼拡大をもたらすことはなかった。つまり、今回の震災は、天災による不可抗力というより、人間の手によって防ぎ得た人災の側面が強いものであった。

オ 多くの先進国では、地震による火災についても、火災保険又はそれに自動附帯される地震保険により、通常の火災の場合と同額の保険金が支払われる制度が採られているのであって、地震が火災保険制度の中で特殊な取扱いを必要とする異常危険であるとの考え方は、むしろ排除されつつあるのが世界的な傾向である。

(3) また、生命保険の約款においては、死亡保険等の主契約において地震免責がないのはもちろんのことであるが、地震免責が認められている災害割増特約や傷害特約その他の特約においても、「被保険者が地震、噴火、津波または戦争その他の変乱により死亡しまたは高度障害状態に該当した場合で、その原因により死亡しまたは高度障害状態に該当した被保険者の数の増加がこの特約の計算の基礎に影響を及ぼすときは、会社は、災害死亡保険金もしくは災害高度障害保険金を削減して支払うかまたはこれらの保険金を支払わないことがあります。」という表現とするか、原則免責としながらも、他方で、「被保険者が地震、噴火、津波または戦争その他の変乱により災害割増保険金の支払事由に該当した場合でも、これらの事由により災害割増保険金の支払事由に該当した被保険者の数の増加がこの特約の計算の基礎に及ぼす影響が少ないと認めたときは、会社は、その程度に応じ災害割増保険金の全額を支払い、またはその金額を削減して支払います。」という条項を置く形を取っている。そして、生命保険各社は、今回の阪神・淡路大震災については、これらの規定の適用上、保険金の支払を削減したり不払としたりする場合には該当しないとして、特約に基づく保険金の支払を行った。

(二) 地震免責条項の内容の漠然不明確性について

地震免責条項は、前記第二の二5記載のとおりの表現になっているが、法律の専門家が読んでも、わかりづらい条項であることは一見して明らかである。

そして、被告らの論によれば、地震免責条項には時的場所的限定はなく、地震と火災との間に相当因果関係があればすべて免責となるように地震免責条項は作ってあるということであるが、このような論を前提とすれば、地震による影響が多かれ少なかれ社会生活上に残っているような状況下における火災は、すべて免責となりかねない。

このような漠然不明確な条項は、健全な企業の保護・育成とか、保険数理を超えた損害を不てん補とするといった、損害保険会社の唱える地震免責条項の存在意義を前提としても、行き過ぎた解釈がなされ、恣意的な運用がなされるおそれのある不当な条項である。

二  争点2(地震免責条項の意味内容)について

(被告らの主張)

1 地震免責条項の第二類型(次の[原告らの主張]参照)の「地震によって生じた火元の火災」には、地盤の揺れによってガス管に亀裂が生じてガス漏れを生じ、そこにタバコの火が引火して火災が発生したというような場合も含まれるし、第三類型の「火元の火災が地震によって延焼又は拡大した場合」には、地震による社会的混乱により消防力が低下して火災が拡大した場合も含まれる。

2 地震免責条項の第三類型は、火元火災の発生原因が何であるか、また、出火時刻が地震の前後のいずれであるかを問わず、地震により延焼拡大した火災を免責とする趣旨であって、この解釈には、以下のとおり合理的理由と文理上の根拠があり、学説上も争いのないところである。

(一) 第三類型の表現には、火元火災の出火時刻を地震前に限定するような文言は一切用いられていない。

(二) 地震の際の火災は、地震による消防力の低下により、出火と地震発生の時間的先後関係にかかわらず、その影響で延焼拡大し得るものであるが、このような場合、地震特有の危険性が発現したものとして、地震免責条項に含めて免責とするのが合理的である。

(原告らの主張)

以下に述べる点にかんがみると、地震免責条項にいう「地震によって」とは「地盤の揺れによって」の意味であり、かつ、その場合の「地震」とは、「地震と同時に広範囲にわたって多発的に火災が生じ、被害額自体が損害保険会社の基礎を掘り崩し、企業の存立を危うくするような地震」を意味すると解すべきであり、次の2(二)の第三類型にいう「火災」は、地震が発生する前に既に発生していたものであることを要すると解すべきである。

1 地震免責条項の存在意義に限局した制限的解釈

(一) 仮に地震免責条項が無効とまではいえないとしても、前記一(原告らの主張)で述べたところからすれば、地震免責条項は、地震損害の巨大性、予測不可能性がもたらす結果から損害保険会社の経営基盤を保護するという存在意義を有する限りで適用されるべく、制限的に解釈されるべきである。

(二) 商法は、被保険者側に帰責事由がない場合には、戦争又は戦争に準ずる場合以外のすべての火災による損害をてん補するという考え方を採っているのであり(商法六六五条参照)、この考え方から地震免責条項を解釈すると、約款中において免責事由とされている地震とは、戦争や変乱に匹敵する広範囲の火災被害を発生させ、損害保険会社の経営基盤を危うくするような大地震を意味すると解されるのである。

2 一般人の合理的意思に基づく解釈

(一) 約款の拘束力の根拠を終局的には当事者の意思の推定におく限り、約款中の条項の意味をどう解釈するかは、当事者の合理的意思によるべきことになる。そして、約款の画一的な処理の要請からすれば、この場合の「当事者の意思」とは、個別の当事者ではなく、一般人の通常の意思(一般人ならどう認識するか)を意味すると解すべきである。

(二) 地震免責条項については、一般保険契約当事者であれば、そこにいう「地震による火災」、「地震による延焼」という場合の「地震」という文言は、「震災」などと同義なのではなく、文字どおり、「地盤の揺れ」を意味すると理解するものと考えられる。

具体的には、火災による損害を、地震との関係で、〈1〉地震によって生じた火元の火災が保険の目的に与えた損害、〈2〉地震によって生じた火元の火災が延焼又は拡大して保険の目的に与えた損害、〈3〉出火原因のいかんを問わず何らかの原因によって生じた火元の火災が地震によって延焼又は拡大して保険の目的に与えた損害、の三類型に分類すると(以下、順に、それぞれ「第一類型」、「第二類型」、「第三類型」という。)、以下のように理解される。

(1) 第一、第二類型にいう「地震によって生じた火元の火災」とは、地盤の揺れによってストーブが倒れたり、炊事中のガスの火が家の中に燃え広がって火災が発生したような場合をいうのであり、地盤の揺れによってガス管に亀裂が生じてガス漏れを生じ、そこにタバコの火が引火して火災が発生したとか、電線の被覆が破れた状態で通電が行われたためにショートして火災が発生したというような場合は、火災の発生に人為的要素が介在するので、含まれないと解すべきである。

(2) 第三類型にいう「火元の火災が地震によって延焼又は拡大」したとは、地震の前に既に火災が発生していた建物が、地盤の揺れによって崩れて周囲に燃え広がったような場合をいうのであり、地震によって消防力が多かれ少なかれ低下した状況下で消防活動がうまくいかずに延焼を生じたような場合は、地震時の対策を行政が普段より立てておけば防ぎ得たものであり、まさに人為的要素によって火災が拡大又は延焼したものということができるから、含まれないと解すべきである。

(3) 要するに、いずれの類型も、地震によって建物が倒壊したのと同様に評価できるような場合を指しているのである。

3 「疑わしきは作成者に不利に」の解釈原則による解釈

約款の条項を解釈するに当たっては、作成者が一方的に自己に有利な約款を作成しかねないという実態から、解釈によって公正さを保つため、当該条項の文言からは複数の解釈が考えられる場合には、作成者に不利に解釈すべきである。

地震免責条項にいう「地震」とは、「地盤の揺れ」そのものを意味するのか、それともより広く「震災」を意味するのか、いずれにも解釈できる余地があり、紛らわしいといわざるを得ない。このような場合には、作成者たる被告らに不利に、「地盤の揺れ」を意味すると解釈すべきである。

三  争点3(地震免責条項の本件における適用の有無)について

(被告らの主張)

本件火元火災は地震によって発生したものであり、原告らの主張する損害は、地震免責条項の第二類型、すなわち「地震によって発生した火災が延焼又は拡大して生じた損害」に該当する。仮に、本件火元火災が地震によるものとは認められないとしても、原告らの主張する損害は、地震免責条項の第三類型、すなわち「発生原因のいかんを問わず、火災が地震によって延焼又は拡大して生じた損害」に該当する。

1 本件火元火災の地震起因性(第二類型該当性)

地震による混乱が継続している間に火災が発生した場合において、自然科学的な厳密な意味での火災原因の立証を求めることは不可能を強いるものであるから、保険者(被告ら)が、客観的状況から当該火災が地震に起因することの蓋然性が高いことを主張・立証すれば、これに対する効果的な反証のない限り地震起因性が認められると解すべきである。

本件火元火災は、以下のとおり、場所的・時間的に本件地震と密接に関連する状態で発生した火災であるから、「地震による火災」との事実上の推定を受けるが、それだけでなく、科学的にも地震起因性が高度に推定される。よって、原告ら主張に係る損害については、地震免責条項(第二類型)が適用され、被告らは免責される。

(一) 本件地震後の火災の特徴

(1)ア 例年の建物出火件数(平成五年が三九六件、平成六年が四二〇件)との対比から明らかなように、本件地震当日(平成七年一月一七日)の神戸市内の建物の出火件数(一〇三件)は異常に多く、右多数の火災の原因は本件地震をおいてあり得ない。

イ 本件地震後には、本件地震直後のみならず、地震の揺れがおさまった後も数時間あるいは数日にわたって、電気やガスあるいはこれらの複合等を原因とした多数の火災が、いわば五月雨的に発生している(このような傾向は、近代都市における地震火災の顕著な特徴である。)。

ウ 本件地震発生から三日間に発生した火災の発生箇所は、おおむね震度七かそれ以上の帯状の地域に集中しており、震度の大きな箇所と火災発生箇所との間には、明らかな相関関係が認められる。

エ 大規模・長時間の地震火災は出火原因の判定が困難であることから、地震後の建物火災においては、出火原因が不明である割合が際立って高く、地震後火災の特徴となっている(本件地震後の火災についても、その多くが出火原因を特定できていない。)。すなわち、不明火とされていることは、当該火災が地震によるものであることを否定する理由とはならない。

(2) 本件火元火災は、消防調査では出火原因は不明とされてはいるが、本件地震当日、地震の揺れがおさまってから約八時間後に、震度七あるいは超七の最も震度の強い地域で発生したものであり、本件地震に起因するものといい得る。

(二) 具体的出火原因について

(1) 出火前の状況

サンタシューズ店舗(木造建物)は、本件地震により倒壊し、構造木材がむき出しになり、着火しやすい状態になるとともに、屋内には商品であるスニーカー、ズック、ケミカルシューズ等の可燃物が多数散在していた。そして、付近では、都市ガスの配管が至るところで切断され、ガス漏れが生じており、サンタシューズ店舗の屋内に滞留していた可能性がある。また、屋内には、石油ストーブや電気ストーブがあった。さらに、建物の倒壊により、電気配線の絶縁被覆がはがれたり断線したりして線間短絡(ショート)を起こしやすい状況であった。

(2) 出火原因―滞留ガスへの着火

本件火元火災の出火原因は、出火状況等(ガス臭、ドーンという爆発音の存在、「青い火がビャーと走ってあっという間に燃え上がった」[乙一の8の(3)]こと等)からすると、本件地震で切断された配管から漏れた都市ガスが屋根の下に滞留し、この滞留ガスに何らかの火源が着火し発火に至ったというものである可能性が最も高い。

その発火源は、必ずしも特定はできないものの、本件地震で停止していた通電が再開されたことによって発生した電気の火花による可能性が最も高く(神戸市内への送配電系統の第一次変電所は、地震の影響をほとんど受けておらず、本件火災現場付近の配電用変電所である甲南変電所へは、第二次変電所の神戸変電所ルートにより地震当日午前八時四五分以降に、また、正規の新神戸変電所ルートでも午後一時四二分以降は送電されたはずである。そして、甲南変電所の配電設備には支障がなかったので、同変電所まで送電されれば自動的にそこから各家庭へと配電供給されたと考えられる。)、また、静電気により発生した火花が発火源となり着火したことも十分考えられる(静電気発生の原因としては、〈1〉火元関係者らの着衣が倒壊した建物の内部と摩擦して帯電し、静電誘導等によって人体が帯電したこと、〈2〉同人らの衣服、手袋等の着脱による摩擦・剥離、又はナタ・スコップ等が建物と摩擦することによって帯電し、人体が帯電したこと、〈3〉同人らが屋根の上等を歩行する時に屋根等との摩擦によって履物が帯電し、人体が帯電したこと、〈4〉同人らの着衣や履物等との摩擦によって、建物の内部や屋根部分の絶縁された金属等の導体が帯電したこと、〈5〉ナタ等による瓦や壁の破壊によって建物の一部が帯電したこと等が考えられる。)。

(3) その他考えられる出火原因

通電再開によって電気配線の損傷箇所がショートし、近辺の可燃物に着火した可能性、地震で多量の物品が落下散乱したためスイッチが入った電気ストーブに通電され、発火した可能性、石油ストーブが地震により転倒し、ストーブ内に残っていた灯油が漏れ、何らかの火源がこれに着火した可能性も否定できない。

なお、本件火元火災発生当時にサンタシューズ店舗にいた火元関係人らは、発火源となるようなものを持っていなかったのであるから、同人らの失火という可能性はない。

2 本件火元火災が延焼・拡大したことの地震起因性(第三類型該当性)

本件火元火災が延焼・拡大した理由は、次のとおり、〈1〉本件地震のため、火元関係者等による覚知が遅れ、また、火元関係者等による初期消火ができなかったこと、〈2〉サンタシューズ店舗の建物はもとより、周辺建物も本件地震により倒壊しており、火災が延焼・拡大しやすい状況にあったこと、〈3〉本件地震による水道の断水や防火水槽の使用不能により消火のために用いる適切な水利が存在せず、また、火災が多発し、消防力の限界を超えていたことなど、いずれも本件地震に起因する点に求めることができる。よって、原告ら主張に係る損害については、地震免責条項(第三類型)が適用され、被告らは免責される。

(一) 火元火災の覚知の遅れ及び火元関係者等による初期の消火活動

本件火元火災は、本件地震により倒壊したサンタシューズ店舗内で発生したものであり、人の出入りも困難で、内部の見通しも悪く、火災報知器も作動しなかったため、右建物内で作業をしていた火元関係者による火災発生の覚知が遅れ、火柱が立つ状態になってからはじめて覚知された。そして、倒壊した建物の中では思うような動作もできないので、消火器による消火活動等もできず、火災覚知後はただ逃げるしかなかった。そのため、通常時ならボヤ程度ですんでいたはずの小さな炎が、火災にまで至ったのである。

また、本件地震による断水のため、付近住民等もバケツリレー等による初期消火活動を行っていない。

(二) 火災が延焼・拡大しやすい状況が作出されていたこと

本件地震により、サンタシューズ店舗では、容易に燃焼する材質の靴が散乱し、また、モルタル壁の剥離した構造木材がむき出しになって折り重なっていたため、火災が極めて延焼・拡大しやすい状況にあった。その結果、本件火元火災の火のまわりは極めて速いものであった。

また、本件地震により、サンタシューズ店舗の北隣・東隣の各建物を含む周辺建物の多くが全壊し、サンタシューズ店舗で発生した火災は、容易に周辺の建物に延焼し得る状態となっていた。その結果、本件火元火災は、極めて速い速度で周辺建物に延焼・拡大していった。

(三) 本件地震による消防力の低下及び消防力の限界を超える同時多発火災

(1) 本件地震による消防力の低下

ア 消防車両到着の遅れ

東灘消防署が、本件火災を覚知して、消防車両を出動させ、それが本件火災現場に到着した時点が、まず、通常の場合に比べ相当遅れていた。ただ、右時点では、本件火元火災は、サンタシューズ店舗全体には拡大していなかった。

イ 地震による消火栓、防火水槽の使用不能

しかし、東灘区内全域の水道が本件地震により断水していたため本件火災現場付近すべての消火栓が利用できず、火元から南へ約二二〇メートルの位置にある川井公園の防火水槽(以下「本件防火水槽」という。)も、水槽から採水口に至る配管が本件地震による亀裂により採水不能の状態となっていたため、消火のための放水ができなかった。

このように、消火活動の基本である放水のための採水手段が本件地震により断たれ、その結果、放水するまでに長時間が経過しており、小さな炎の段階で火災を消し止めることができず、この間、火災は燃えるにまかせる状態で火勢は強くなる一方であった。

ウ 他の水利

現場に到着した消防隊も、他の水利を探し、福池小学校のプールや付近住民の井戸の利用の可能性について報告を受けたが、右プールは大量放水とホース延長に難点があり、井戸水も、その利用を試みたが、三、四分の放水で水が無くなり、次に水がたまるのを待たざるを得ない状況であったため、消防水利としては、大きな期待がもてなかった。

結局、水位がわずか一ないし二センチメートルしかない天上川を堰き止めて採水するほかなかったが、消防車両二台の四線放水に十分な水圧を確保することすらできない程度の水量しかなく、しかも、建物炎上火災には最低限一六線放水が必要なところ、当初は二線放水ができる程度の消防隊員しか確保できないでいた。

(2) 消防力の限界を超える同時多発火災

本件火災の消防活動に当たった東灘消防署では、平常時には、建物炎上火災なら最低限消防車八台(放水線一六線)を出動させて消火に当たるという体制がとられていた。

そして、東灘消防署の管轄内において、本件地震発生直後より本件火災発生までに、公的に記録されているだけでも一五件の火災が発生しており、そのうち、本件火災発生時においても鎮火されていなかった火災が七件もあった。

そうすると、本件火災発生当時消防車両は最低限六四台(八台×八か所)必要であったことになるが、現実には、東灘区には消防車両が九台しかなく、加えて、他の消防署も自らの管轄内において発生した火災の消防等の対応に追われていて、他の管轄内の火災の消火について応援を望める状態ではなかった。また、他の都道府県の消防署の応援もまだ到着していなかった。

したがって、当時の消防体制では、地震発生後に同時多発する火災に対しては、消防車両や放水線が圧倒的に不足していた。すなわち、右のように平時には予想できない多くの火災が同時的に発生したことは、消防力の限界をはるかに超えるものであったのである。

(四) 本件火元火災の延焼・拡大は、人災的側面が強いとの原告らの主張について

(1) 神戸市の防火体制

原告らは、神戸市の防火体制に不備があったから、本件火元火災の延焼・拡大は人災的側面が強いと主張するが、評価が一方的にすぎ、当を得ていない。

ア 各自治体がその予算の中で、どのような点に力点を置いて防災体制を築くのかは、行政の合理的裁量にゆだねられている。

したがって、過去に大水害による甚大な被害を受けてきた神戸市が、いつ発生するか分からない地震よりも、水害に力点を置いて対策を立てたとしても、市民の安全を確保する方策として、あながち人災とまで非難されるほどのことはない。

イ 仮に消防車両を、他の都市並みに数多く配属させていたとしても、また、仮に本件防火水槽の水利が利用できたとしても、前記(三)(2)記載のとおり同時多発していた火災に対し、放水線が圧倒的に不足していたため、延焼・拡大を食い止めることはできなかった。

(2) 本件防火水槽の利用の可能性

原告らは、本件防火水槽に貯水されていた一〇〇トンの水を、上部のマンホールから直接揚水して、これを水利として使用すれば、本件火元火災の延焼・拡大を早期に阻止できたと主張するが、結果論の域を出ない。

ア 本件火災当時、現場の消防隊員にとっては、本件防火水槽の採水口から揚水できない原因が不明であるのみならず、水が残存していたこと自体も不明であった。また、消防隊員は、採水口からの揚水が不能である場合にマンホールを掘り出して揚水するという揚水方法については経験もなく、指導や訓練も受けていなかった。

したがって、現場の消防隊員にとって、マンホールからの揚水を想起すること自体が不可能であった。

イ 仮に、上部マンホールからの揚水を想起し得たとしても、地中に埋まっているマンホールの位置確認やその掘り出し作業に数時間(掘り出しだけでも二時間以上)を要したと考えられ、右のような作業を行ってこれを使用することが可能となった時点では、既に本件火災は相当広範囲に延焼が拡大していたと考えられる。また、本件防火水槽を利用して現実に放水できる消防車両が大きく不足しており、仮に上部マンホールからの揚水が可能となっても、有効な消火活動はできなかった。

(3) その他の水利による消火の可能性

原告らは、井戸水等を活用すれば、消火栓や本件防火水槽が利用できなくとも、本件火元火災の延焼・拡大を防止できたかのような主張をするが、家庭用の井戸は消防水利として必要な水量が確保できない。また、他の水利(〈1〉福池小学校のプール、〈2〉住吉川、〈3〉海水)を利用しなかったことや、天上川の水利の利用の遅れについても非難するが、もともと、これらの水利は、前記のとおり、水量の絶対量が少ないとか、安定的かつ豊富な水の供給が望めないとか、水源が出火場所から離れており、消防車のホースが届かない、などの理由から、いずれも消防水利として不十分なものである。そもそも、これらのものに消防水利を求めること自体が、本件地震による断水や本件防火水槽の損壊により適当な消防水利が失われていたことを如実に示すものである。

(原告らの主張)

仮に地震免責条項が適用される余地があるとしても、本件火災の発生、延焼・拡大のいずれについても本件地震との間に相当因果関係は存しない。

1 本件火元火災は、地震によって発生した火災ではなく、地震免責条項の第二類型の適用の余地はない。

(一) 本件地震当日においては、地震直後の午前五時四六分から午前六時までのわずか一四分の間に、同日中に発生した火災件数一〇九件の約半数に該当する五四件の火災が集中して発生しているのに対し、午前六時以降は火災発生件数が激減し、特に午前九時以降は一時間に二件平均しか発生しなかったことから、地震から八時間以上も経過して発生した本件火元火災については、その発生と地震との因果関係につき事実上の推定を受けないというべきである。

(二) 被告らが本件火元火災の出火原因と主張するところは、いずれも認められるものではない。

被告らが可能性が最も高いと主張する滞留ガスへの着火の可能性も、全く存しない。

(1) 都市ガスの滞留について

〈1〉本件火災発生地域への都市ガスの供給は午前一一時五〇分には完全に停止されていたこと、〈2〉サンタシューズ店舗にはガスは引いておらず、ガス器具もなかったこと、〈3〉仮に配管に残存していたガスがありそれが漏れたことがあったとしても、本件火災現場へ供給されていた天然ガスは空気よりも軽く、上昇するものであるから、ガス供給停止後約二時間も経過した午後二時ころまでには既に上昇してしまっているはずであること、〈4〉仮にサンタシューズ店舗内においてガスが漏洩したことがあったとしても、サンタシューズ店舗の屋根は壊れて穴があいており、ガスは右穴から上昇拡散してしまっているはずであること等からすれば、サンタシューズ店舗内に都市ガスが滞留することはない。

仮に、出火当時、サンタシューズ店舗内に都市ガスの漏洩があったとしても、出火直前にガスの臭いはしていなかったことからすると、サンタシューズ店舗内において、ガスが爆発燃焼するほどの量の都市ガスは存在していなかった。また、ガスは空気よりも軽いため空気よりも上へと上昇しようとして拡散していくのであるから、「青い火がビャーと走る」というような、ガスが直線的に存在しているかのような現象は起こり得ないはずである。

加えて、そもそも、ガスが燃焼するためには、ガスが空気と混合しその濃度が燃焼限界内にあることと同時に、着火温度に達することが必要である。しかし、後記のとおり、静電気による着火の可能性は存在しないし、送電再開による着火の可能性もない。したがって、ガスが燃焼するための着火源が存在しないのであるから、そもそもガスの漏洩の有無にかかわらず、漏洩ガスへの着火の可能性も存在しない。

(2) 送電再開による出火の主張について

本件火災現場地域(神戸市東灘区魚崎北町五丁目八番一二号を含む地域)へは、平成七年一月一七日午前五時四六分の地震発生と同時に送電が停止し、同地域への送電開始は配線を管理する変電所その他関連施設が復旧した後の平成七年一月二〇日一七時五九分である。

被告ら主張の、神戸変電所ルートにより地震当日午前八時四五分以降に甲南変電所に送電されたという事実はない。系統の異なる上位変電所から送電されることはなく、神戸変電所系統と新神戸変電所系統との間で切り替えはあり得ないからである。

仮に、送電がなされたとしても、配電柱(変圧器)が倒れると市中変電所が感知して、直ちに送電をストップするところ、地震当時神戸市東灘区魚崎北町五丁目付近では数本の配電柱が倒壊しており、それを甲南変電所が感知して送電をストップしていたはずである。仮に、甲南変電所が配電柱の異常を感知せずそのまま送電され、屋内配線が断裂して、電線と電線が接触するなど異常があったとしても、ブレーカーが直ちに作動して電気は屋内へ流れない。

以上、いずれにしても、屋内に電流が流れることはないから、電気の火花が本件火元火災の発火源になり得ないことは明らかである。

(3) 静電気による出火の主張について

本件において物理的及び電気的に静電気出火の可能性は全く存在しない(本件火元火災発生当時の客観的、物理的環境及び当時の気象状況からして、本件において静電気出火のために必要な最小着火エネルギー〇・二八mJ[天然ガス、メタン]の可燃性物質の発生限界である約三〇kVにも人体の帯電量が達するとは到底考えられない。また、サンタシューズ店舗の建物構造や物品販売業という使用形態からして、右建物が人体等との接触により容易に帯電し静電気出火するとは考え難いし、ナタ等による瓦や壁の破壊によって建物の一部が帯電して出火したのであれば、火元関係者がその状況を認識していたはずである。)。

また、本件火元火災の原因が被告ら主張の静電気出火ということであれば、この静電気出火は極めて特殊な電気的環境条件から生じたものと考えざるを得ないから、本件火元火災は本件地震とは何ら因果関係のない火災ということになる。

2 本件火元火災の延焼・拡大は本件地震に起因するものではなく、地震免責条項の第三類型の適用の余地はない。

(一) 本件地震後に発生した火災の大半が本件地震当日中に鎮火され、時間の経過とともに消防力が回復していた状況の中で、本件地震から八時間以上も経過した後に発生した本件火災が、大規模な延焼となったこと自体本件地震後の火災として異常であり、地震以外の何らかの延焼要因が大きく関与していたとの事実上の推定ができる。

本件地震により同程度の揺れにさらされながら、西宮市内においては、焼損床面積が五〇〇〇平方メートルを超える大規模火災は一件も発生しなかった。西宮市の消防体制が特に近代化されていたわけではなく、通常の消防体制のもとにおいては、本件地震の火災に対する影響力は本来その程度のものにすぎなかったのである。にもかかわらず、神戸市内において本件地震後発生した大規模火災、とりわけ地震後八時間以上も経過した後に発生し、焼損延べ床面積六五一〇平方メートルにも達した本件火災は、後記のとおり、本件防火水槽を利用できなかったことや天上川の水利利用の決断が大幅に遅延した事実に象徴されるように、人災的側面の極めて強い災害であるというほかはない。

(二)(1) 本件防火水槽の使用懈怠

本件防火水槽は、サンタシューズ店舗から約二〇〇メートルという近距離に位置し、その中には一〇〇トンの水が確保されていた。

本件防火水槽は、本件地震により水槽から採水口に至る配管に亀裂が入ったため採水口から吸水することはできなかったものの、本件防火水槽上には直径九〇センチメートルのマンホールの蓋が設けてあり、その蓋を開ければホースにより容易に吸水できる構造となっていた。

本件火災現場に駆けつけた消防隊員が一人でも右マンホールの蓋を探そうとしていれば、容易に探し出すことができ(採水口が壊れた場合に備えて、本件防火水槽の採水口付近にマンホールの蓋の位置の判る図面が備え付けられていれば、蓋の位置を探し出すことはより容易であり、また、消防隊員がスコップやツルハシ等を用いてマンホールを掘り出す作業をしていれば、ごく短時間で右蓋を開け採水することが可能であった。)、本件防火水槽内の一〇〇トンの水により、二線放水で約一〇〇分、四線放水で約五〇分放水することができ、サンタシューズ店舗以外の建物への延焼を防げた蓋然性は極めて高かった。

しかるに、本件火災現場に駆けつけた消防隊員は、誰一人右マンホールを探そうともせずに、採水口から吸水できなかったということだけから、本件防火水槽の利用をいとも簡単に断念してしまった。右消防隊員がマンホールの蓋を探すという発想さえもたなかったのは、神戸市消防局が、日頃の消防訓練等において、防火水槽の採水口が壊れた場合にマンホールから採水する方法を周知させようとしていなかったこと等による。

なお、図面が手許になくとも、本件防火水槽の上にはマンホールの直近に、水量を確認するための神戸市消防局のマーク入りの蓋のついた点検口が地表に設置されているのであって、右点検口の位置を確認さえすればそれが水槽上にあり、かつ、その付近にマンホールの蓋があることは自明であるから、簡単にマンホールの蓋を見付けだすことができ、さらには水量も確認することが可能であった。

(2) 井戸の使用状況

魚崎北町五丁目付近には、少なくとも七個の井戸があるところ、近藤方の井戸は使用されたが、他の井戸は、住民らが消防隊員に使用するよう要請したにもかかわらず、使用されなかった。

これに対し、サンタシューズ店舗の西側の延焼現場においては、井戸水を使用した付近住民のバケツリレーによって消火に成功している。

(3) 天上川の水利利用の判断の遅れ等

本件火災は、本件火災現場東側を南北に流れる天上川の水を使用した消火活動が(原告ら住民の要請により)なされたことにより、一層の延焼を免れ鎮火に至った。天上川の水利を利用した消火活動においては、原告ら住民も、付近のマンションに置かれてあった土嚢や住民の持ち出した布団を使って、川の水の堰き止め、ホース延長作業、交通整理等の協力をした。

しかし、本真橋上に消防車を止め天上川の堰き止め作業が実際に開始されたのは、本件火災が発生し、消防車も到着してから既に約一時間近く経過した午後三時ころからと遅かった。

本件火災当日の天上川の水量は人間の足首辺りの深さまであったのであり、ホースで二階建の建物の屋根を越える位の圧力をかけられるだけの水量があった。実際、本件火災は天上川からの放水によって一層の延焼を止めることができたのであるし、その放水作業は四線放水が可能であった。

また、前記のとおり天上川の水の堰き止め作業は本真橋上に止められた消防車により行われたのであるが、同橋よりも北側に位置するマンション「ファミール本山」付近に消防車を止めて同じ作業を行っていれば、同マンションが火災現場から東に一直線のところにあるため、スムーズにホースをひくことが可能であった。しかし、消防車の位置の変更等は一切なされなかったため、ホースの接続に手間取り長時間を費やした。

(4) その他

さらに、本件火災現場にかけつけた消防隊員が、ホースのジョイントを間違えて東灘消防署に引き返し、無駄な時間を費やしたという事実もある。

(三) 延焼拡大防止の可能性

本件火災においては、火災発生後短時間内に数台の消防車が本件火災現場に到着していた。にもかかわらず天上川使用の決定に至るまでには長時間が経過しているのであり、この時間内にマンホールを使った本件防火水槽の使用及び天上川の使用による消火がなされていれば、延焼の防止は可能であった。

結局、消火栓の使用不能等地震による消防力の低下があったとしても、本件火災においては前記のとおり延焼拡大を防止するために実際に現場でとり得た手段が多数あった。にもかかわらず適切な消防活動がなされなかった。

このように本件火元火災が延焼した主な要因は、消防隊員の著しい怠慢(本件防火水槽のマンホールを探そうともしなかった初歩的なミス)、判断ミス(天上川の水利利用の決断の大幅な遅延)等の人為的なものである。これらの人為的な延焼要因は、地震による消火活動の妨げとなる要因が存していたとしても、同要因に比較してより大きなウエイトを占めていたことが明白である。

したがって本件地震と本件火災(延焼・拡大)との相当因果関係は切断されており、本件火災は、地震とは関係のない人為的要因により発生したものであり、いわゆる人災である。

(四) 寄与度に応じた因果関係の認定

仮に、本件火元火災の延焼・拡大につき本件地震の影響が否定できないとしても、その影響は微々たるものにすぎず、右影響に応じた限度(寄与度)を超えて地震免責条項を全面的に適用することは許されない。

四  争点4(本件各目的物の滅失は、火災によって生じた損害といえるか[本件各目的物は、本件火災による滅失の前に既に本件地震により滅失していなかったか。]。)について

(原告らの主張)

本件火災によって、原告らはそれぞれ、少なくとも別表「保険金額(合計)」欄記載の各金額に相当する損害を被った。

なお、本件各目的物のうち、被告らが本件火災発生時既に滅失していたなどと主張するものの状況は、以下のとおりである。

1 原告大前正幸

(一) 本件建物1

本件地震の揺れにより、本件建物1の一階は西側事務所部分の天井が一部陥没し、二階部分が北西方向に傾いたものの、被告安田火災海上保険株式会社が主張するように「二階部分が西側道路に崩れ落ちた状態」にはなっておらず、二階物干に至る階段には損傷がなく、その他、二階屋根外壁等についても損傷はなかった。

(二) 本件家財51

原告大前正幸らは二階から直接外に出たので一階の家具の状況は確認していないが、二階南側廊下に掛けていた額縁、壁掛時計、東側和室に掛けていた色紙、西側洋間に掛けていた絵画はいずれも落下することなく無事であり、東側和室の洋服タンスは倒れたが布団の上であったので大した損傷は受けず、整理タンス、鏡台、本箱(ガラス戸付き)は倒れなかった。二階中央和室の和タンス、整理タンスも倒れなかった。

2 原告入谷康一

検甲一の写真から明らかなように、本件家財55が収容されていた建物(本件建物2)は本件地震後も倒壊していなかった。

3 原告後藤寿子

(一) 本件建物59

本件建物59は、本件地震の揺れによっても倒壊せずに建っていた。

本件地震の揺れによっても二階で寝ていた原告後藤寿子は無事であったが、一階で寝ていた後藤ますゑの布団の上付近で同室内の二本のタンスが互いにもたれかかる状態となった(後藤ますゑの体には触れていなかった。)。後藤ますゑは、本件地震の揺れの直後に起きたと思われる狭心症の発作により死亡したが、外傷は全くなく、圧死等の物理的要因で死亡したものではない。なお、右タンスが障害となり原告後藤寿子の力では後藤ますゑを搬出できなかったため、付近住人及び原告後藤寿子の長女の夫が協力して後藤ますゑを外へ運び出した。

(二) 本件家財60

本件建物59内にあった本件家財60は、本件地震の揺れによって倒れたものが若干あった程度で、概ね壊れず無事であった。

なお、原告後藤寿子は、後藤ますゑの死亡を確認できないまま、駆けつけた長女の夫と共に東灘区内の住吉川病院、更に死亡確認後は東灘保健所において付き添っていたため、地震後の契約建物の室内状況の詳細は確認できなかった。

4 原告三井誠

(一) 本件建物65

本件建物65は、北側に玄関を配置した南北に長い建物で、概略東西を壁で仕切り玄関を別にした二世帯用の建物構造になっていた。

本件地震の揺れにより、建物の西側二階の居間は真下に沈み込む形で直下の一階茶の間に落下した。東側の建物は、居住者がいなかったため不確かであるが、倒壊した可能性が高い。結局、本件建物65は全体として本件地震の揺れにより滅失した可能性が大きい。

(二) 本件家財65

本件家財65のうち、西側二階の居間にあった家財は、同二階部分が一階に沈み込んだだけであったため、衝撃が少なく壊れず無事であった。西側一階の居間にあった家財も無事であった。

西側一階の居間で寝ていた中橋ふじゑは、西側一階南側のガラス戸が開かなくなったことから、右ガラス戸を壊して室内に入った近所の住人によって外に連れ出されたが、身体に異常はなかった。

5 原告碓井良孝

(一) 本件建物18

本件地震の揺れにより、本件建物18のうち、一階の応接間が倒壊し、また、二階の物干し場が直下の台所・土間に落下した。しかし、その他の建物部分は倒壊しなかった。なお、右物干し場の落下により、当時台所にいた碓井ふじゑ及び碓井昌子が死亡した。

(二) 本件家財18

右のとおり一階応接間と物干し場直下の一階台所部分が壊れたため、本件家財18のうち、右両部屋に存した家財の一部は壊れた。しかし、その他の部屋の家財は壊れなかった。

6 原告神田信男

(一) 被告住友海上火災保険株式会社関係

本件建物53及び同54は、平成五年に屋根、外壁等を補修したばかりであり、検甲三の写真からも明らかなように本件地震後も倒壊することなく建っていた。

(二) 被告興亜火災海上保険株式会社関係

(1) 本件建物57

本件建物57は、平成五年に外壁をサイディングに張り替えたばかりであり、玄関ポーチ屋根南角が一部損傷した程度で、その他、大した損傷部分はなく、検甲三の写真からも明らかなように地震後も倒壊することなく建っていた。

(2) 本件家財56

本件家財56については、二階のテレビが転倒した程度で、タンス、冷蔵庫等は倒れず、電灯も落下しなかった。

(被告らの主張)

以下のとおり個別に主張するほか、原告らが本件火災によりその主張に係る損害を受けたこと(本件各目的物が、本件火災による滅失の前に本件地震により滅失していなかったこと)は知らない。

1 被告安田火災海上保険株式会社

本件建物1(原告大前正幸関係)は、本件火災発生前に本件地震の地震動により一階部分が倒壊し、二階部分が西側道路に崩れ落ちた状態となっていたのであり、本件火災発生時には被保険利益のある目的物としてはもはや存在しておらず、そもそも火災保険金請求権自体が発生していない。

2 被告富士火災海上保険株式会社

本件建物18(原告碓井良孝関係)は、原告大前正幸宅の北隣であるが、本件火災発生前に本件地震の地震動により全体が北側に崩れ落ちた状態となっていた。本件建物18内にいた碓井ふじゑ及び碓井昌子は、原告碓井良孝も主張するように、ともに、地震動のために倒壊した家屋の下敷きとなり窒息死している。

したがって、本件建物18は、地震動そのものにより倒壊しており、その内部の本件家財18ともども、本件火災発生時には被保険利益のある目的物としてはもはや存在しておらず、そもそも火災保険金請求権自体が発生していない。

3 被告住友海上火災保険株式会社

本件建物53(同54も同一の建物)(原告神田信男関係)は、本件火災発生前に本件地震の地震動により重大な損傷を受け、建物としての本来の機能及び価値を滅失していたのであり、本件火災発生時には被保険利益のある目的物としてはもはや存在しておらず、そもそも火災保険金請求権自体が発生していない。

4 被告興亜火災海上保険株式会社

本件家財55(原告入谷康一関係)、本件家財56及び本件建物57(原告神田信男関係)並びに本件建物58(原告伊藤敬関係)は、いずれも、本件火災発生前に本件地震によりその全部が滅失したものとみられる。

5 被告大東京火災海上保険株式会社

本件建物59(原告後藤寿子関係)は、本件火災発生前に本件地震の地震動により倒壊し、本件火災発生時には被保険利益のある対象物としては既に存在しておらず、そもそも火災保険金請求権自体が発生していない。

6 被告三井海上火災保険株式会社

本件建物65(原告三井誠関係)は、本件火災前に本件地震の地震動により倒壊し、本件家財65も損壊・滅失していたのであり、本件火災発生時には被保険利益のある目的物としてはもはや存在しておらず、そもそも火災保険金請求権自体が発生していない。

五  争点5(保険金請求権に質権が設定されていることは、被保険者が保険金を請求するにつき障害となるか。)について

(被告らの主張)

仮に被告が保険金支払義務を負うとしても、火災保険金請求権に質権が設定されている場合には、当該火災保険金は直接質権者に支払われるべきものであるから、本件各火災保険契約のうち、前記第二の二6記載の各火災保険契約に係る原告らは、火災保険金の給付を請求することができない。

(原告らの主張)

本件訴訟の訴訟物たる保険金請求権につき質権が設定されていることは、以下のとおり、当該原告らが保険金の給付を請求するにつき障害とならない。

質権の設定によって質権設定者は質入債権を取り立てることができなくなるなどと説かれることがあるが、この質権設定者に対する拘束は、質入債権についての質権者の利益保護を目的としているものであって、右目的を超えて質権設定者の行為を制限するものでない。したがって、質権設定者が質入債権の取立てをすることができなくなるとの拘束を受けるとは、右拘束に反する行為を質権設定者が行っても質権者に対抗し得ないことを意味するにとどまり、質権設定者は、質入債権につき、第三債務者に対し給付の訴えを提起し、無条件の勝訴判決を得ることができるものである(最高裁昭和四八年三月一三日判決・民集二七巻二号三四四頁参照)。

六  争点6(被告らは、地震免責条項についての情報提供義務違反により損害賠償責任を負うか。)について

(原告らの主張)

1 仮に地震免責条項の適用によって被告らに火災保険金の支払義務が認められないとしても、被告らは、原告らに対し、保険契約締結時又は更新時に地震免責条項に関して説明をしなかったこと(情報提供義務の不履行)により、損害賠償責任を負う。このような情報提供義務不履行による損害賠償責任は、主としてワラント取引や変額保険取引において論じられてきたものであるが、保険契約においても妥当する。

(一) 地震免責条項に関する情報提供義務の根拠

損害保険会社である被告らは、消費者たる原告らに対し、以下に述べる自己決定権の保障、事業者の社会的責任、約款作成者の責任の各観点から、地震免責条項に関する情報につき提供すべき義務がある。

(1) 自己決定権の保障

現代社会における契約内容の複雑化・専門化、製品・サービスの専門化、約款取引の一般化、そこにおける事業者と消費者との間の情報量及びその分析能力の格差を考えるならば、必要な情報収集は自己の責任において行うべきものとする私的自治の原則をすべての契約について適用すると、情報力において劣る当事者(消費者)は、自己の目的に適合的な契約を選択する自由を実質的に奪われる。このような自己決定権を剥奪された状況下での意思表示によっては、消費者が契約的拘束を受けることを正当化することはできない。そこで、対事業者取引における消費者の自己決定権を保障し、私的自治を実質的なものにする観点から、事業者に情報提供義務が課される。

(2) 事業者の社会的責任

事業者は、当該事業に精通した専門家として、それに関する知識のない一般消費者を顧客として事業を展開し利益をあげているのであり、消費者が事業者に寄せる社会的信頼に応え、情報面で事業者に依存せざるを得ない消費者に対し情報を提供すべき責任がある。

特に、損害保険事業は、免許がなければ営むことができない事業であり(旧保険業法[平成七年法律第一〇五号による改正前の保険業法をいう。以下同じ。]一条、新保険業法[平成七年法律第一〇五号による改正後の保険業法をいう。以下同じ。]三条一項)、免許に基づき特別の社会的地位を得て保険事業を営む損害保険会社としては、事業者の責任として、消費者に対して自らが販売する商品である保険の内容につき情報を提供すべき義務がある。

また、保険募集の取締に関する法律一六条一項(新保険業法三〇〇条一項)は、保険契約者の保護の目的で、保険会社の情報提供義務を明示的に規定しているものと解されるが、これは、情報力における消費者と保険会社との構造的格差を前提として、消費者の保険会社に対する依存の必然性から、保険会社に寄せられる社会的信頼を保護するため、保険会社の義務として情報提供の責任を明文で課したものである。

(3) 約款作成者の責任

さらに、保険のような約款が使用される取引では、約款作成者たる保険会社とその顧客たる消費者との間で約款条項に関する情報量には格段の差があり、この格差は約款作成者たる保険会社によって作り出されたものであるから、保険会社は、当事者間の情報における平等を回復すべく、より高度の情報提供義務を負う。したがって、保険会社が約款を使用して消費者と契約をする場合は、消費者が契約を締結するかどうかの判断に影響を与え得る事実について、約款内容を具体的に説明する義務を負うべきものである。保険会社として約款中に免責条項を定める場合には、当該免責条項発動の必要性及び可能性についても調査し、消費者に対し、説明すべき責務がある。

このような考え方は、裁判例でも認められている(奈良地方裁判所平成七年一〇月五日判決・判例タイムズ九一一号一五五頁[証券商品に関するものであるが、保険商品は、証券商品以上に抽象的で一般消費者に理解が困難なものであり、判示の論理はそのまま保険商品にも妥当する。])。

(二) 損害賠償責任の根拠

約款内容の重要事項につき情報提供義務の不履行があった場合、保険会社は、消費者に対し、保険募集の取締に関する法律一一条一項、不法行為、債務不履行又は契約締結上の過失責任に基づき、損害賠償責任を負う。

そして、地震免責条項は、保険金の支払の有無に直接関わる、保険の内容の最も基本的な部分であり、被告らは、原告らに対し、地震免責条項に関し、説明を全くしなかったり、不十分な説明をしたにすぎなかったものであるから、損害賠償責任を負う。

2 損害額

被告らは、地震免責条項に関する情報提供義務違反により、原告らに対し、次の(一)のとおり、地震免責条項がなかった場合に火災保険契約上支払われるべき火災保険金額相当額の損害賠償をなすべきものである。仮に、火災保険金額相当額の損害賠償が認められないとしても、少なくとも、次の(二)のとおり、地震保険金額相当額から地震保険料相当額を控除した額の損害賠償をなすべきものである。

(一) 火災保険金額相当額

不明瞭で意味の判読が困難な約款条項を作成し、かつ、その約款条項の内容説明を怠った保険会社は、当該約款条項は本件のごとき場合には適用がないと信頼して保険契約を締結した消費者に対し、右信頼を惹起せしめたことの帰責性から、当該約款条項の適用がない旨の消費者の信頼どおりの損害賠償責任を負うべきである。すなわち、地震免責条項により火災保険契約上の火災保険金の支払義務がないとされる場合であっても、地震免責条項に関する情報提供義務の不履行があったときは、保険会社は、地震免責条項は本件のごとき火災には適用がないと信じていた消費者たる保険契約者に対し、右の信頼を保護すべく、保険募集の取締に関する法律一六条一項、一一条一項等に基づき、火災保険金額相当額の損害賠償義務を負うべきである。

原告らは、地震の際の火災であっても火災保険が受領できるものと信じていたものであり、被告らは、地震免責条項に関する情報提供をせずに原告らの右信頼を温存し、火災保険契約を締結したのであるから、原告らの信頼に応えるべき責務がある。

(二) 地震保険金額相当額から地震保険料相当額を控除した額

地震免責条項の適用により極めて広い範囲で火災保険金の支払が受けられないとの説明が事前になされていれば、消費者は、合理的判断により、地震保険に加入しないとの意思表示はしないはずである。反対に、地震免責条項についての説明がなく、あるいはそれが不十分であった場合には、消費者において、地震免責条項の適用範囲を、保険会社が予定していたよりも狭く理解し、特に地震免責条項の解釈類型中の第二、第三類型に当たるものとして保険会社側が考えるような場合であっても、当然火災保険金の支払を受け得ると考え、地震保険には加入する必要はないとの判断を導くこととなる。そうすると、保険会社の地震免責条項に関する情報提供義務の不履行は、消費者から、自らの合理的判断により地震保険という商品を選択する機会を奪うことになる。

損害保険会社たる被告らは、地震免責条項についての情報提供を怠ったことにより、消費者たる原告らが地震保険に加入するという自己決定をする機会を喪失せしめたものであり、この自己決定権侵害による損害額は、原告らが地震保険に加入していたならば得られたであろう地震保険金額相当額から地震保険料相当額を控除した額となる。

(被告らの主張)

1 地震免責条項に関する情報提供義務について

(一) 地震免責条項に関する情報提供義務の根拠として原告らが主張するものは、いずれもその根拠とはなり得ない。

(1) 自己決定権の保障について

原告らは、自己決定権の保障を説明義務の根拠として主張するが、右主張は、その観点は異なるものの、結局は、地震免責条項は、契約者が地震免責条項の意義・内容を十分理解し納得の上でそれを選択するという意思表示が存在するのでなければ個別の火災保険契約の中へ取り込まれることはないとの、前記一の地震免責条項の拘束力に関する主張と同質のものであり、前記同様附合契約の本質と相容れない。

(2) 事業者の社会的責任について

事業者の社会的責任それ自体はいわゆる道義的責任に属するものであって、保険会社に対し、地震免責条項の意味内容並びにその発動の必要性及び可能性につき説明をすべきことを法的に義務付ける根拠にはなり得ない。

また、保険募集の取締に関する法律一六条一項は、保険会社の役員・使用人等が不当勧誘・募集行為を行うこと等を禁止し、これを取り締まるためのいわゆる取締法規であって、直ちに債務不履行又は不法行為の基礎となる注意義務までを課すものではない。

(3) 約款作成者の責任について

原告らが引用するものを含め、ワラントについての説明義務を認めた裁判例は、商品の構造が一般人にとって容易に理解できるようなものではなく、極めて高いリスクを内包するというワラントの危険性に照らし、商品の構造や危険性についての説明を十分にしないままその購入を強く勧誘することに違法性を見出し得るとしたものである。

これに対し、火災保険の基本構造そのものは単純で、その性質上収益を生むことはないが、危険もない。原告らは、保険商品は、証券商品以上に抽象的で一般消費者に理解が困難なものであるというが、火災保険において理解が困難な部分があるとすれば、料率計算の手法等、保険契約の要素とならない部分であり、保険料の額、受領できる保険金の額、保険事故の範囲等、保険契約の中核的部分は固定的かつ明瞭である。

このように、ワラントと火災保険とではその商品としての性質に著しい違いがあるから、ワラントについての説明義務を認めた裁判例があるからといって、火災保険について同様に考えることはできず、原告ら主張の情報提供義務の根拠とすることはできない。

(二)(1) 変額保険やワラント取引に関する裁判例においても、当該商品の概要及び当該取引に伴うリスクに関する情報提供の方法、態様及び程度は、債務不履行又は不法行為の成否に関する重要な判断材料ではあるが、その状況の如何のみで、証券会社又は生命保険会社側の損害賠償責任の有無が判断されているわけではない。これらの裁判例において問題とされているのは、勧誘の違法性であり、その社会的な逸脱性である。

したがって、保険約款の各条項の意味内容を説明しなかったというだけで直ちに保険会社に損害賠償責任が発生するものとし、勧誘行為の違法性、反社会性の主張を欠く原告らの主張は、主張自体失当といわざるを得ない。

(2) また、地震免責条項は火災保険の創設とともに火災保険の保険約款の一部を構成し、その歴史は一〇〇年以上に及んでいるところ、過去の論争及び裁判等を経て地震免責条項を含む約款の拘束力ないし有効性は確立している。他方、地震免責条項による火災保険の担保範囲の空白を埋めるものとして昭和四一年に地震保険に関する法律が制定されたことにより、地震による損害は地震保険が、その他の損害は火災保険がそれぞれ担保するという役割分担が法的な制度として確立している。

そのような状況の下において、地震免責条項について、契約締結前に、保険申込書あるいは契約のしおり等の書面に基づき申込者が十分理解するに至るまで、繰り返し口頭で説明する私法上の注意義務が保険会社にあるとする趣旨の原告らの主張は、保険契約が附合契約であることと真っ向から矛盾するものであり、到底受け容れることができない法理論である。

さらに、火災保険普通保険約款には、地震免責条項のほか多数の免責条項が規定されており、そのいずれも重要でないものはないと考えられるところ、原告らの主張に従えば、保険会社は、契約締結前に、すべての免責条項につき申込者が十分理解するに至るまで詳細に説明することが必要となり、かつ、すべての免責条項につき申込者が十分理解したことの証拠を確保しなければならないこととなる。これは、合理性・迅速性といった附合契約における現代的要請を無視する理論である。

2 損害額に関する原告らの主張について

(一) 火災保険金額相当額

不法行為法における損害の範囲は本来客観的に画されるべきものであり、被害者が主観的に獲得できるであろうと期待していた金額が法律上の損害となることはない。

また、火災保険に地震免責条項があることを知った場合に保険申込者が採るべき方法としては、地震免責条項の存在を承知で火災保険に加入するか、火災保険に加入するのを断念するしか選択の余地がないはずである。

いずれにしても、原告らは、地震免責条項のない火災保険に加入することはできず、地震による火災により保険の目的が損害を被った場合に火災保険金を受け取ることは制度上全く不可能であった。

したがって、原告らは、被告らから地震免責条項の意味内容並びにその発動の必要性及び可能性についての説明を受けていたとしても、火災保険金を受け取ることはできなかったのであるから、火災保険金額相当額が原告らの損害となることはない。

(二) 地震保険金額相当額の主張

原告らの主張する「自己決定権」の内容には、原告らが、説明を受けたとしてもなお地震保険に加入しないという意思決定をする可能性があることが含まれているのであるから、右権利の侵害と地震保険金額相当額の損害との間に因果関係がないことは理論上明白である。

殊に、平成七年の本件地震発生以前の阪神間における地震保険加入率が非常に低い状況にあったことは周知のとおりであり、仮に原告らが地震免責条項につき口頭にて説明を受けていたとしても、原告らが地震保険に加入した可能性は著しく低いものといわざるを得ない。

したがって、被告らが原告らの求めるとおりに地震免責条項について詳細な説明を尽くしたとしても、原告らが地震保険金を受領できた蓋然性を認めることはできないから、地震保険金額相当額が原告らの損害であるとする原告らの主張は失当である。

第四  当裁判所の判断

一  争点1(地震免責条項の効力)について

1  地震免責条項は本件各火災保険契約についての各普通保険約款に定められているところ(前記第二の二5)、一般には、保険契約者は、個別具体的な約款条項の内容につき熟知していない場合であっても、普通保険約款によって火災保険契約を締結するという意思を有しているのが通常であることにかんがみると、当事者双方が特に普通保険約款によらない旨の意思を表示しないで火災保険契約を締結した場合には、特段の事情がない限り、右当事者は普通保険約款によるという意思をもって火災保険契約を締結したものと推認するのが相当である。これに反する原告らの主張は、採用することができない。

ただし、普通保険約款によって火災保険約款が締結されたもしても、当該約款中に強行法規や公序良俗に反するような条項がある場合には、右条項は効力を有せず、契約当事者を拘束しない。したがって、地震免責条項が公序良俗に反するならば、地震免責条項は契約当事者を拘束しないことになる(地震免責条項が強行法規に反するとは解されない。)。

以下、検討する。

2  本件全証拠によるも、本件各火災保険契約締結に際し、当事者双方が普通保険約款によらない旨の意思を表示したとの事実は認められない(かえって、証拠[乙A五の1・2、一三ないし二五[枝番を含む]、乙B一六ないし二八[枝番を含む]、乙C五ないし一二、乙D一三ないし二〇[枝番を含む]、乙E三、八ないし一二、乙F一ないし三[枝番を含む]、乙G五ないし八、乙H一の1、三の1・2、五、乙Iの一1・2、二、乙J一、二、乙K三、乙L三ないし一一、M二)及び弁論の全趣旨によれば、本件各火災保険契約の契約の申込みには、「貴会社の普通保険約款および特約事項を承認し、下記のとおり保険契約を申し込みます。」などと記載されている火災保険契約(更改)申込書が用いられていることが認められる。)。

3  そこで、地震免責条項が公序良俗に反するかについて、検討する。

(一) 地震免責条項の存在理由の合理性について

(1) 地震による損害については、被告ら主張のように、〈1〉地震は異常に巨大なときがあり、その損害が日本の損害保険事業の担保能力をはるかに超えることも起こり得ること(地震損害の巨大性)、〈2〉地震は、かなりの長期間を取ってみても、その発生時期、規模、場所がいずれも不規則であり、かつ、同一規模の地震でも自然条件及び社会条件によって損害額が大きく左右され、そのため、地震災害には、保険の技術的前提である大数の法則が通用せず、平均損害額の算定ができないこと(発生予測の困難性)、〈3〉地震は地域的に頻度差が大きく、また、いったん地震が発生すれば一定地域に長期に地震が反復する傾向もみられ、それゆえ、地震の危険を強く感じる地域の人だけが集中的に保険に加入したり、危機意識のある時期だけ保険に加入するなどの傾向が生じ、危険の平均化が難しいこと(逆選択の危険)等の理由により、保険という制度になじみにくく、これを無限定に損害保険の対象とすると、損害保険制度が成り立たなくなるおそれもあるということができる。そのため、通常の火災保険契約には地震免責条項が設けられている。そして、日本では地震が多いことから、地震による損害に対応した保険制度の創設が強く求められたため、通常の火災保険をいわば補完するものとして、火災保険に原則自動附帯方式で締結される地震保険制度が設けられたものである。

そうすると、右のような地震保険を含む火災保険制度全般の制度趣旨にかんがみれば、地震免責条項の存在には十分合理性があるということができる。

(2) 原告らは、地震免責条項が存在理由に乏しい根拠として種々主張するが、被告らを含む損害保険会社各社が本件地震による損害をてん補することができるだけの資力を有するからといって、右資力ではてん補し得ないような損害をもたらす地震が発生する可能性がないとはいえないこと、フェーン現象等による大火、風水害による損害と地震による損害とは、(1)に挙げたような地震の特異性からみて同列には論じられないこと、本件震災の際の具体的な損害状況を理由として一般的に地震免責条項が存在理由に乏しいものと解することはできないこと、諸外国の損害保険制度についてはそれぞれの国ごとの地震に関する事情が異なり、日本の損害保険制度と諸外国の損害保険制度を単純に比較することはできないこと、生命保険と損害保険とでは各保険の目的・約款・構造を異にするから、両者を単純に比較することはできないこと、火災保険の保険料は、地震損害については保険金を支払わないことを前提にその料率が算定され、地震損害以外の損害のてん補に充てられることが予定されているものであること、日本の火災保険制度では地震損害は地震保険によりてん補されることが予定されていること、などの事情にかんがみれば、地震免責条項が存在理由に乏しい根拠として原告らが主張するところは、いずれも、一般的に地震免責条項の存在理由の合理性を否定するに足る根拠とはなりえず、また、(保険会社の存立の基礎を揺るがすほどの規模の災害ではない)本件地震による損害について適用される限りにおいて地震免責条項は合理性がない、ということも困難である。

(二) 地震免責条項の内容が漠然不明確であるとの点について

地震免責条項は前記第二の二5記載のとおりのものであり、一読しただけで理解することが極めて容易であるとはいえないが、一般通常人の理解を基準としても、その意味が全く漠然としていて不明確であるとまでいうことはできない。

なお、地震免責条項が適用されるためには、火災の発生ないし火災の延焼・拡大と地震との間に相当因果関係が認められることが必要なのであって、地震による影響が多かれ少なかれ社会生活上に残っているような状況下における火災がすべて免責されることになるわけではない。

(三) したがって、地震免責条項が公序良俗に反する理由として原告らが主張するところはいずれも採用することができず、地震免責条項が公序良俗に反するということはできない。

4  よって、地震免責条項は、本件各火災保険契約の内容として、各火災保険契約当事者ないし被保険者を拘束するといわなければならない。

二  争点2(地震免責条項の意味内容)について

1  普通保険約款中の条項の文言は、一般通常人の認識・理解を基準にして解釈すべきところ、地震免責条項の文言は、〈1〉地震によって生じた(火元)火災による損害(第一類型)、〈2〉地震によって生じた(火元)火災が延焼・拡大したことによる損害(第二類型)、〈3〉(火元)火災(その出火原因を問わない)が地震によって延焼・拡大して生じた損害(第三類型)に対しては保険金を支払わない旨を定めているものと解される。

2(一)  原告らは、右第一類型及び第二類型にいう「地震によって生じた(火元)火災」とは、地盤の揺れによってストーブが倒れたり、炊事中のガスの火が家の中に燃え広がって火災が発生したような場合をいうのであり、地盤の揺れによってガス管に亀裂が生じてガス漏れを生じ、そこにタバコの火が引火して火災が発生したとか、電線の被覆が破れた状態で通電が行われたためにショートして火災が発生したというような場合は、火災の発生に人為的要素が介在するので、含まれないと解すべきである旨主張する。

しかし、「地震によって生じた(火元)火災」をもって、特に原告らのいうような限定的なものと解すべき根拠は見当たらず、地震による物理的被害の結果として発生した火災全般を指し、原告らが含まれないとして挙げる、地盤の揺れによってガス管に亀裂が生じてガス漏れを生じ、そこにタバコの火が引火して火災が発生したとか、地盤の揺れによって電線の被覆が破れた状態で通電が行われたためにショートして火災が発生したというような場合も含まれると解するのが相当である。

(二)  また、原告らは、第三類型にいう「(火元)火災が地震によって延焼・拡大」したとは、地震の前に既に火災が発生していた建物が、地盤の揺れによって崩れて周囲に燃え広がったような場合をいうのであり、地震によって消防力が多かれ少なかれ低下した状況下で消防活動がうまくいかずに延焼を生じたような場合は、地震時の対策を行政が普段より立てておけば防ぎ得たものであり、まさに人為的要素によって火災が拡大又は延焼したものということができるから、含まれないと解すべきである旨主張する。

しかし、本件地震のような大地震が発生した場合、地震直後から同時多発的に火災が発生し、すべての火災に迅速に対応することは困難になること、交通や通信の混乱が消防活動を阻害すること、水道管の破損による断水が原因で消火栓が使用不能となり消防活動が阻害されることなど様々な理由によって、平常時よりも広範に火災が延焼・拡大する事態は容易に予測されるところであって、たとえ防火体制がより充実していれば延焼・拡大の範囲が違っていたはずであるという場合であっても、平常時においてすら通常の火災の延焼・拡大を防ぐことができないような状況でない限り、右のような防火体制の不足をもって人為的な延焼・拡大であるというのは相当でなく、地震によって火災が延焼・拡大したものと評価すべきである。したがって、第三類型は、このような事態による保険事故も免責とするものと解され、特に原告らのいうような限定的なものと解すべき根拠は見当たらない。

三  争点3(地震免責条項の本件における適用の有無)について

1  まず、本件火災による損害が地震免責条項の第二類型に該当するか否か、換言すれば、本件火元火災は本件地震により発生したものであるか否かについて、判断する。

(一) 被告らは、本件火元火災は、場所的・時間的に本件地震と密接に関連する状態で発生した火災であるから、「地震による火災」との事実上の推定を受ける旨主張するところ、地震による大きな揺れの直後に火災が発生し、他に出火原因が想定し得ないような場合であれば、地震による火災であると事実上推定することも相当と考えられるが、少なくとも、本件火元火災のように、本件地震発生の約八時間も後に発生し、また、後記のとおり火元となった当該建物内で荷物の運び出し等の作業が行われていたような場合については、様々な出火原因が想定し得るから、右のような推定が働くとはいい難い。

(二) そこで、本件火元火災の具体的出火原因について、検討する。

(1) 証拠(甲四九の4、七四、一三七、乙一[枝番を含む]、三六、四〇、乙H一七、一八、乙J六ないし八、証人田路真己子)及び弁論の全趣旨によれば、次のアないしエの事実が認められる(日時は、特に断りのない限り、すべて平成七年一月一七日である。次の(2)においても同じ。)。

ア 本件地震後のサンタシューズ店舗の状況

サンタシューズ店舗は東西に長い切妻屋根の平家建であったが、本件地震により、壁、柱が倒壊し、屋根が押しつぶされたようにほとんど全部地面に崩落した状態で、全体的にやや北側方向へ倒壊した。ただし、東端部分においては、北側部分は、隣家の二階部分が倒れかかってきて押しつぶされるような形になっており、南側部分も、右倒れかかった隣家の二階部分に邪魔されるような形になって、北側方向への倒壊はしておらず、東端部分を除く部分とは倒壊状況が少し異なっている。また、屋根には、右のように倒壊状況の異なる東端部分とそれ以西の部分との間に亀裂が入って損壊し、西側部分にも損壊して穴が生じた部分ができ、店舗内に天井部分からも外光が入る状態となった。そして、店舗内部には、右のように建物自体が倒壊した上に、商品の靴、倒れた陳列台のガラス、天井のベニヤ板、壁等が散乱し、いわばがれきの山のような状態になった。なお、本件地震により倒壊する前のサンタシューズ店舗の内部は、別紙「株式会社サンタ平面図」のとおりであるところ、紳士サンダルの棚の付近の壁に設置されていた配電盤は、本件地震により壁と一緒に店舗内側に向けて倒れ込んだ状態となった。

イ サンタシューズ店舗への人の出入り等

株式会社サンタの経営者である田路和廣は、午前一〇時ころ、灘区の自宅から、妻の田路真己子と二人でサンタシューズ店舗の状況を見に行ったが、右ア記載のとおり倒壊していたため、いったん自宅に帰り、午前一一時ころ、スコップ等を用意して、田路真己子及び高校生の長男と一緒に、再度、サンタシューズ店舗に行った。そのころには既に、周辺では、被災者による後片付けや生き埋めになった人の救助等が行われていた。

田路ら三人は、店舗南西角付近の西側シャッターと建物本体との間に生じた隙間からいったん店内に入ってみたが、前記アのような散乱状態であったため、ほどなく店舗の外に出た。そして、田路和廣と長男は、屋根の上を歩いてサンタシューズ店舗の東端部分に行き、屋根の損壊部分から店舗内に入り、散乱した壁や柱、商品等をのけて通り道を作った上で、事務室・書類置場から支払関係の書類等を取り出すなどの作業をした。その間、田路真己子も、現金を探したり、商品を入れる袋や近所の人にあげる靴を取り出したりするために、前記南西角付近の隙間から店舗内に数回出入りし、また、田路和廣ないし長男から書類を受け取ったりするために、屋根の上を歩いて店舗東端部分まで行ったりした。

なお、サンタシューズ店舗内には、電気ストーブはなく、石油ストーブは四台あったが、電気の冷暖房機器を設置したため、三年ほど前から使用されていなかった。また、田路ら三人は、いずれも、サンタシューズ店舗内でタバコを吸うことはしなかった。

ウ 本件火元火災の出火(発見)時の状況

午後二時ころ、田路真己子が田路和廣ないし長男の指示を待って、店舗中央やや東寄り付近の屋根上で東を向いて立っていた際、店舗西側の道路上で近所の者が二、三回「火事だ。」と叫んだので、振り向くと、店舗内の子供運動靴の棚ないしその少し西側付近の上に当たる屋根の部分から炎混じりの煙が立ち上がっていた。田路真己子は、店舗内にいた田路和廣と長男に「火事だ。」と言って、炎混じりの煙が立ち上がっていた部分のすぐそばを通って、店舗西側の路上に避難した。長男も、田路真己子の声を聞いてすぐに避難した。田路和廣は、しばらく店舗内に留まっていたが、煙が店舗西側部分から立ち込めてきたので、避難した。

その後、火勢がかなり強くなり、原告江部穏が家から消火器二本を持ち出して消火に当たったが消火できず、ほどなく店舗全体から炎が吹き出すような状態になった。

エ ガスの供給、送電の状況

〈1〉 ガスの供給

サンタシューズ店舗では、都市ガス・プロパンガスとも使用しておらず、店舗内にガスの配管はなかった。なお、店舗周辺においては、本件地震直後、都市ガスが漏洩していたが、午前一一時五〇分には、本件火災現場を含む神戸第二ブロックへの都市ガスの供給は完全に停止されていた。

〈2〉 送電の状況

サンタシューズ店舗では、本件地震直後に送電が停止された。これは、本件火災現場を含む地域への配電用変電所(甲南変電所)への供給変電所(新神戸変電所)が本件地震によって被害を受けたことによる。しかし、甲南変電所は、午前八時四五分から午前九時までの間に別の系統の変電所(神戸変電所)から送電を受け、午後一時四二分には、本来の送電系統が復旧した。

ただし、東灘区内では多くの配電線路が被害を受けており、本件火災現場地域への送電再開時刻についての弁護士法二三条の二に基づく照会に対し、関西電力株式会社神戸支店は一月二一日午後四時、同社三宮営業所は一月二〇日午後五時五九分とそれぞれ回答している。

また、一月三一日に東灘消防署員が行った本件火災のり災者に対する現場聞込調査において、複数のり災者が、本件火災発生時は停電中であったと回答している。

(2) 右(1)認定の事実に基づき検討する。

ア 田路真己子はサンタシューズ店舗内に五回入ったうちの五回目の時点で南の方から漂ってきたガスの臭いを感じた旨証言するが、サンタシューズ店舗では、都市ガス・プロパンガスとも使用しておらず、店舗内にガスの配管はなかったこと、店舗周辺においては、午前一一時五〇分には、本件火災現場を含む神戸第二ブロックへの都市ガスの供給は完全に停止されており、都市ガスは空気より軽い(都市ガス13Aの比重は空気を一として〇・六五である[甲一三六])から、近隣から漏出したガスが本件火元火災発生時まで付近に残っているとは考え難いこと、田路和廣は店舗内でガスの臭いを感じたことはない旨述べていること(甲七四の2)からすれば、本件火元火災発生時にサンタシューズ店舗内に(出火原因となる程度の)ガスが滞留していたという可能性は小さいものと推認される。

また、本件火災現場を含む地域への配電用変電所(甲南変電所)は、午前八時四五分から午前九時までの間に別の系統の変電所から送電を受け、午後一時四二分には本来の送電系統が復旧したものの、東灘区では多くの配電線路が被害を受けており、本件火災現場地域への送電再開時刻について、関西電力株式会社神戸支店は一月二一日午後四時、同社三宮営業所は一月二〇日午後五時五九分とそれぞれ回答していること、東灘消防署員が行った現場聞込調査において、複数のり災者が本件火災発生時は停電中であったと回答していること等に照らすと、本件火元火災発生時において、サンタシューズ店舗に通電が再開されていたとは認め難い。

更に、静電気火災が発生するためには、爆発限界範囲内の濃度をもつ可燃性混合物が存在し、かつ、これに着火するだけの放電エネルギーを放出する静電気放電が起こることが最低限必要であるところ(甲一三八)、右のような状況にあったことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件地震で切断された配管から漏れた滞留ガスに通電の再開あるいは静電気によって発生した火花が着火したことが本件火元火災の出火原因であるとは認められない。

イ 右のとおり本件火元火災発生時においてサンタシューズ店舗に通電が再開されていたとは認め難い以上、電気配線の損傷箇所がショートして近辺の可燃物に着火したとか、電気ストーブに通電され、発火したとは認められない(そもそも電気ストーブは店舗内になかった。)。また、店舗内にあった四台の石油ストーブは三年ほど前から使用されていなかったのであって、その中に灯油が残っていたことを認めるに足りる証拠はないから、石油ストーブが本件地震により転倒し、ストーブ内に残っていた灯油が漏れ、何らかの火源がこれに着火したことが本件火元火災の原因であると認めることもできない。

(三) 以上によれば、結局、本件火元火災は本件地震により発生したものとは認められないから、本件火災による損害は地震免責条項の第二類型に該当するということはできない。

2  次に、本件火災による損害が地震免責条項の第三類型に該当するか否か、換言すれば、本件火災は本件火元火災が地震によって延焼・拡大したものであるか否かについて、判断する。

(一) 証拠(甲七三の1・2、乙一、四六、四八の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、次の(1)ないし(8)の事実が認められる。

(1) 同時多発火災

東灘消防署(本件火災の消火に当たった消防署)に配属されていた消防車は、小型ポンプ車四台、ポンプ付救助車一台、化学車二台、屈折はしご車一台、はしご車一台であった(なお、その他の消火機材としては、小型動力ポンプ三機及び市民消火隊用の小型動力ポンプ四機が配属されていた。)。そして、平時の火災の際には、火災通報があれば通常ポンプ車等の放水を担当する車両を四台出動させ、家屋が炎上している場合には、さらに四台を追加し、合計八台が出動する(ポンプ車等は最低四人が乗車して出動し、二線延長を原則としている。)体制がとられていた。

しかし、東灘消防署管内においては、本件地震の当日、午前中に一四件の火災が発生しており、本件火元火災の発生した午後二時ころにおいても、そのうち五件及び午後一時二〇分ころに発生した一件の計六件の火災が未消火の状態であった(東灘消防署の覚知時刻が午後二時より遅い一件を除く。)ため、本件火災にポンプ車(及び消防隊員)を集中させることはできなかった。また、他の消防署管内でも火事が多発していたため、その応援を求めることもできなかった。

(2) 消防車到着の遅れ

東灘消防署では、一一九番通報受信前に本件火元火災を覚知したので(本件火災現場から黒煙が上昇しているのを発見した。)、指令により消防車両が本件現場に向かったが、幹線道路は渋滞し、脇道も倒壊建物により通れないところがあり、さらに、人命救助の要請に対応したりしたため、消防車両が現場に到着するまでの時間は、通常の場合よりも長くかかった。

(3) 消火栓利用不能

東灘区内全域の水道が本件地震により断水していたため、本件火災現場付近の消火栓はいずれも利用できなかった。

(4) 本件防火水槽の不使用

消防隊員は、本件火元から南西へ約二二〇メートルの位置にある本件防火水槽(耐震性。容量約一〇〇トン)の採水口からの揚水を試みたが、防火水槽から採水口に至る配管に、本件地震により亀裂が生じていたため(このことは後日判明した。)、採水口から揚水することができなかった。

(5) 井戸水の利用

その後、消防隊員は、井戸水を使用してもらいたいとの付近住民の要請を受けたので、東灘消防署から小型動力ポンプを搬送してきて、付近の近藤方の井戸から採水して放水したが、三、四分放水すると井戸水が無くなって放水不能となり、井戸水の溜まるのを待って三回程度放水したが、消火に対する効果に期待が持てなかったため、放水を中止し、近藤方以外の井戸は利用しなかった。

(6) 小学校のプールの水の不使用

いったんは福池小学校のプールの水も利用することとされたが、延焼が拡大して大量の水が必要となり、冬期のため貯水量の少ないプールの水量だけでは消火は困難と判断されたので、天上川を堰き止めて(もともと流量が少なく[川底から一、二センチメートル]、そのままでは揚水することができなかった。)そこから揚水することに決定され、結局は右プールの水は消火に使用されなかった。

(7) 天上川からの揚水

午後三時ころから、消防隊員や付近住民が、本真橋付近において、土嚢や布団等を用いて天上川の流れを堰き止めた。そして、二台のポンプ車から各一線採水し、本件火災現場までの間に分岐器を用いてホース延長をし、本件火災現場においては合計四線で放水した。ただし、天上川の水量は流れを堰き止めた後でも十分ではなかった(川底から踝ぐらいまで)ため、放水の圧力を上げることはできなかった。

(8) 本件火災の鎮圧

本件火災の包囲体制が取れたのは発生後数時間経過した夜になってからのことであり、その時点では既に大規模に炎上し、火勢も拡大の一途をたどっていたため、本件火災が鎮圧されたのは、翌一八日午前一〇時ころであった。

(二) 右(一)認定の事実に基づき検討するに、本件地震の影響により、消防車両が本件火災現場に到着するのが遅れ、本件火災現場付近の消火栓が断水したり、本件防火水槽の採水口が使用不能となるなどのことがなければ、あるいは、本件火災にポンプ車(及び消防隊員)を集中させることができ、また、他の消防署の応援を求めることができていれば(同時多発火災のために、いずれもできなかった。)、本件各建物のうちのほとんどは延焼しなかった蓋然性が高いということができる。ただし、本件火元火災の火勢は当初から強いものであったこと(乙一、証人竹馬良興)、前記1(一)認定のとおりサンタシューズ店舗の南西角付近が出火場所であること、右出火場所との位置関係(本件火災により全焼ないし半焼した建物の配置は、おおむね別紙「焼損建物配置図」のとおりである[乙一の1・4]。ただし、氏名に付された数字は、本件における原告番号とは関係がない。)、原告竹馬文子夫婦が本件火元火災の発生に気が付いて避難した時点で既に、本件火元火災の火は原告竹馬文子所有(共有)に係る本件建物61のサンタシューズ店舗に接する北側台所に入っていたこと(証人竹馬良興)からすると、サンタシューズ店舗の南側に接する建物についてのみは、本件地震が起きていない平常時であっても延焼していた可能性を否定することはできず、右に挙げた本件地震による影響がなければ延焼しなかったという蓋然性が高いとまでいうことはできないから(なお、乙一の8の(5)の各写真が本件火元火災発生からどのくらいの時間の経過後に撮影されたものであるかは認定することができない。)、本件建物7・同66(原告古坂勝也関係)、本件家財47が収容された建物(原告河合謙二郎訴訟承継人河合和子関係)、本件建物61(原告竹馬文子)は、本件地震によって延焼・拡大した火災によって滅失したものと認めることはできない。

(三) 原告らは、本件火元火災の延焼・拡大は、本件防火水槽を利用できなかったことや天上川の水利利用が大幅に遅延した事実に象徴されるように、人災的側面が強い旨主張する。

(1) しかし、各自治体がその予算の中で、どのような点に力点を置いて防災体制を築くのかは、行政の合理的裁量にゆだねられていると解すべきところ、神戸市は、地震対策よりも風水害対策に重点を置いていたというのであり(乙四七)、神戸市の地震対策が他の都市に比して遅れていたからといって、本件地震と本件火元火災の延焼・拡大との間の相当因果関係が直ちに否定されるということはできない。

(2)ア 本件防火水槽については、これが使用できていれば、本件火元火災が延焼・拡大した範囲はより狭いものであったものと推認することができる(甲七三の1・2参照)。

しかし、前記(一)認定のとおり本件防火水槽の採水口から揚水することはできなかったのであり、また、採水口から約三メートル離れた位置に埋設されている(甲七一)防火水槽上部のマンホールを掘り出して(地面を約二〇センチメートルほど掘ることになる。)そこから揚水することは可能ではあったものの、右マンホールを掘り出すにはその位置が分かっていた場合でも三〇分程度はかかること(甲七五、一四一、証人新戸建男)、前記(二)認定のとおり本件火元火災の火勢は当初から強いものであり、火はどんどん燃えているという状況であったこと(甲七三の1)、そのような状況の中で、本件火災現場にいた消防隊員らは、マンホールの所在位置を知らず、その所在位置を示す図面も所持しておらず(東灘消防署内の事務室も、ロッカー、机等が倒れて書類が散乱し、ロッカー内に保管されていた右図面を容易に探し出すことができない状況であった。)、マンホールを掘り出すのにどれだけの労力と時間を要するのか分からなかったこと(甲七三の1・2、弁論の全趣旨)、仮に揚水可能となっても当初は消防隊員の数の関係で二線放水しかできなかったであろうこと(甲七三の1・2)、前記(一)認定のとおり他の水利の利用を検討していること等の事情に照らすと、消防隊員が本件防火水槽を利用しなかったからといって、本件地震と本件火元火災の延焼・拡大との間の相当因果関係が否定されるということはできない。

イ 前記(一)認定のとおり消防隊員は近藤方の井戸から採水して放水したが、効果に期待が持てなかったため放水を中止したというのであるから、近藤方以外の井戸を利用しなかったことをもって、消防隊員に落度があるとまでいうことはできない。

ウ 前記(一)認定のとおり天上川の水量はもともと少なく、流れを堰き止めた後でも十分ではなく、放水の圧力を上げることはできなかったのであり、本件火災が鎮圧されたのは火災発生の翌日の午前一〇時ころであること、本件地震による断水のため消火栓が利用できなかったり、本件地震により配管に亀裂が生じていたため本件防火水槽の採水口から揚水できなかったりしたこと等のために、もともと流量の少ない天上川を利用せざるを得なくなったこと等の事情に照らすと、他の水利の利用を検討するなどしていて直ちには天上川を利用するとの決断に至らなかったからといって、本件地震と本件火元火災の延焼・拡大との間の相当因果関係が否定されるとまでいうことはできない。

(四) 以上によれば、仮に本件各目的物が本件地震により滅失していなかったとすれば、本件建物7・同66及び本件家財66(原告古坂勝也関係。なお、本件建物7と同66は同一性のある建物であり、二階建の本件建物7の状態で本件火災保険契約7を締結し、三階を建増しした後の本件建物66の状態で本件火災保険契約66を締結したものである[甲一一九]。)、本件家財47(原告河合謙二郎訴訟承継人河合和子関係)並びに本件建物61(原告竹馬文子関係)は、本件火元火災が本件地震によって延焼・拡大した火災により滅失したとはいえない(すなわち、地震免責条項の第三類型には該当しない)ものの、その余の本件各目的物は、本件火元火災が本件地震によって延焼・拡大した火災により滅失した(第三類型に該当する)といわなければならない。

3  したがって、本件において、本件建物7(同66)及び本件家財66(原告古坂勝也関係)、本件家財47(原告河合謙二郎訴訟承継人河合和子関係)並びに本件建物61(原告竹馬文子関係)の焼失については地震免責条項は適用されないが、その余の本件各目的物の焼失については地震免責条項が適用されることになる。

そうすると、右三名の原告を除く各原告の火災保険金の支払を求める主位的請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないというべきである(なお、右三名の原告に係る本件火災保険契約7、66、47、61に基づく各保険金請求権については、質権が設定されていないから、争点5については判断する必要がない。)。

四  争点4(本件各目的物の滅失は、火災によって生じた損害といえるか[本件各目的物は、本件火災による滅失の前に既に本件地震により滅失していなかったか。]。)について

1  証拠(甲八五、九四、一一九、一三二、乙A九、乙K一、乙H一七ないし一九、乙J六ないし八[枝番を含む])及び弁論の全趣旨によれば、本件火災現場の周辺地域においては、本件地震により多数の建物が倒壊したところ、前記三名の原告の関係では、次の(一)ないし(三)の各事実が認められる。

(一) 原告古坂勝也関係

本件建物7(同66)は、原告古坂勝也が共有持分一〇分の七を有する建物であったところ、本件地震により倒壊することなく、本件火災発生時において建物としての基幹部分を保持していた。

(二) 原告河合謙二郎訴訟承継人河合和子関係

本件家財47が収容されていた建物は、本件地震により、屋根の一部に瓦がめくれる損傷が生じたが、倒壊することなく、本件火災発生時において建物としての基幹部分を保持していた。なお、本件家財47は、神戸市民生活協同組合との間の火災共済契約の目的物にもなっており、河合謙二郎が神戸市民生活協同組合に対して共済会の支払を求めた別件訴訟(神戸地方裁判所平成七年(ワ)第一七〇五号共済金請求事件)において、平成一一年四月二八日、同人は本件火災によって四〇〇万円の損害を被ったとして、神戸市民生活協同組合に四〇〇万円の共済金の支払を命じる判決が言い渡された。

(三) 原告竹馬文子関係

本件建物61は、原告竹馬文子が共有持分二分の一を有する建物であったところ、本件地震により倒壊することなく、本件火災発生時において建物としての基幹部分を保持していた。

2(一)  本件火災保険契約7、同66、同47及び同61の契約締結時期及び保険金額に照らせば、本件地震前の右各契約目的物の評価額は、本件建物7(同66)は一〇〇〇万円、本件家財66は一五〇〇万円、本件家財47は一〇〇〇万円、本件建物61は一二〇〇万円であったと推認するほかなく、これを覆すに足りる証拠はないところ、前記各建物は、右1認定の事実によればいずれも建物としての基幹部分を保持していたというのであるが、本件火災現場の周辺地域における本件地震の震動が激甚なものであったことを考慮すると、本件地震によりある程度の損傷を受けていたものと推認され、本件火災発生時における残存評価額は、本件建物7(同66)は本件地震前の評価額の八割程度、それに収容されていた本件家財66は本件地震前の評価額の六割程度、本件家財47は本件地震前の評価額の四割程度、本件建物61は本件地震前の評価額の八割程度であると認めるのが相当である。

したがって、右各契約目的物の本件火災による損害の額は、それぞれ、八〇〇万円(本件建物7[同66])、九〇〇万円(本件家財66)、四〇〇万円(本件家財47)、九六〇万円(本件建物61)となる。

(二)  そうすると、原告古坂勝也に対して支払うべき保険金額は、本件建物7(同66)については、同原告の共有持分が一〇分の七であり、そして、被告安田火災海上保険株式会社との間及び被告日産火災海上保険株式会社との間で重複して火災保険契約が締結されているから、約款の規定により、被告安田火災海上保険株式会社が二八〇万円、被告日産火災海上保険株式会社が二八〇万円(合計五六〇万円)となり、本件家財66については九〇〇万円(被告日産火災海上保険株式会社)となる。

被告日動火災海上保険株式会社が本件家財47につき原告河合謙二郎訴訟承継人河合和子に対して支払うべき保険金額は、神戸市民生活協同組合との間の火災共済契約と重複して保険契約が締結されているから、約款の規定により二〇〇万円となる。

被告大東京火災海上保険株式会社が本件建物61につき原告竹馬文子に対して支払うべき保険金額は、同原告の本件建物61の共有持分が二分の一であるから、四八〇万円となる。

右各金額を超える分については、右各被告は各原告に対して支払うべき義務を負わない。

五  争点6(被告らは、地震免責条項についての情報提供義務違反により損害賠償責任を負うか。)について

原告らは、損害保険会社である被告らは消費者たる原告らに対し、自己決定権の保障、事業者の社会的責任(旧保険業法一条・新保険業法三条一項、保険募集の取締に関する法律一六条一項・新保険業法三〇〇条一項)、約款作成者の責任の各観点から、地震免責条項に関する情報につき提供すべき義務があるのに、被告らは原告らに対し、保険契約締結時又は更新時に地震免責条項に関して説明をしなかったこと(情報提供義務の不履行)により、保険募集の取締に関する法律一一条一項、不法行為、債務不履行又は契約締結上の過失責任に基づき、地震免責条項は本件のごとき火災には適用がないと信じていた原告らの信頼を保護して火災保険金額相当額の損害を賠償すべき義務を負い(一次的主張)、そうでないとしても、消費者たる原告らが地震保険に加入するという自己決定をする機会を喪失せしめたという自己決定権侵害により原告らが地震保険に加入していたならば得られたであろう地震保険金額相当額から地震保険料相当額を控除した額の損害を賠償すべき義務を負う(二次的主張)旨主張する。

しかし、前記一説示のとおり、本件のように当事者双方が特に普通保険約款によらない旨の意思を表示しないで火災保険契約を締結した場合には、右当事者は普通保険約款によるという意思をもって火災保険契約を締結したものと推認するのが相当であり、たとえ保険契約者が個別具体的な約款条項の内容につき熟知していない場合であっても、火災保険契約の内容として保険契約者ないし被保険者を拘束するところ、本件各火災保険契約を締結した者(原告ら)が、地震免責条項に関して説明を受けていたとしても、地震免責条項を含まない約款に基づく火災保険契約を締結できたと認めるに足りる証拠はなく、地震免責条項を含む約款に基づく火災保険契約を締結するかしないかの選択権を有していただけであって、火災保険契約を締結する以上は地震免責条項を含む約款に基づく火災保険契約を締結するほかはなかったのであるから、原告らの一次的主張のように被告らは地震免責条項は本件のごとき火災には適用がないと信じていた原告らの信頼を保護して火災保険金額相当額の損害を賠償すべき義務を負うとするのは、火災保険契約が前記のような性格(いわゆる附合契約)であることと相反するものであって、採用することができない。

また、原告らの二次的主張は、被告らは消費者たる原告らが地震保険に加入するという自己決定をする機会を喪失せしめたという自己決定権侵害により原告らが地震保険に加入していたならば得られたであろう地震保険金額相当額から地震保険料相当額を控除した額の損害を賠償すべき義務を負う、というものであるから、本件各火災保険契約を締結した者(原告ら)が地震免責条項に関して説明を受けていたとすれば、各々が、地震保険に加入していたであろうということが前提となるところ、一般の火災はいつ何時起こるか分からず、これによって自己の建物や家財が被害を受けるおそれがあるが、地震国といわれる日本においても本件地震のような巨大な地震が、自己の住む地域で起こることは滅多にあることではないと考えるのが、少なくとも阪神・淡路大震災以前においては阪神間における通常人の認識であったと考えられること、阪神間における地震保険加入率が阪神・淡路大震災以前は非常に低い状況にあったこと(弁論の全趣旨)、地震保険に加入するには火災保険の保険料に比べて高額の保険料の負担を伴うことに照らすと、本件各火災保険契約を締結した者(原告ら)が地震免責条項に関して説明を受けていたとすれば、その各々が、地震保険に加入していたであろう、という蓋然性が高いとは認められない。原告ないしその家族らの各陳述書には、地震免責条項につき説明を受けていれば地震保険契約を締結していたはずである旨の記載があるが、いずれも採用することができない。

したがって、情報提供義務違反を理由として損害賠償を求める原告らの予備的請求は、いずれも理由がない。

第五  結論

よって、第一事件原告古坂勝也の被告安田火災海上保険株式会社に対する請求(主位的請求)のうち、二八〇万円及びこれに対する平成七年三月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払を求める部分、同原告の被告日産火災海上保険株式会社に対する請求(主位的請求)のうち、一一八〇万円及びこれに対する平成七年三月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払を求める部分、第一事件原告河合謙二郎訴訟承継人河合和子の被告日動火災海上保険株式会社に対する請求(主位的請求)のうち、二〇〇万円及びこれに対する平成七年三月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払を求める部分並びに第一事件原告竹馬文子の被告大東京火災海上保険株式会社に対する請求(主位的請求)のうち、四八〇万円及びこれに対する平成七年三月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払を求める部分は理由があるのでこれを認容し、右原告らのその余の各請求並びにその余の第一事件原告ら(訴訟承継人を含む。)及び第二事件原告西條嘉一の各請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条及び六五条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

別表1

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別表2

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別表3

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別表4

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別表5

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別表6

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別表7

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別表8

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別表9

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別表10

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別表11

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別表12

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別表13

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別表14

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別表73

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別表74

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別表75

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別表76

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別表77

(第二事件)

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別紙

株式会社サンタ平面図

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別紙

焼損建物配置図

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